30周年企画の仕掛け人たちの想いを記録する
SPECIAL TALK I放送局との取り組み 編
取材 2023.12.8
Jリーグ30周年記念関連企画へそれぞれの関わり
2023年はJリーグが開幕して30周年の節目ということで、NHKの皆さんとはさまざまな新しいチャレンジをご一緒させていただきました。まずは5月14日に「Jリーグ30周年スペシャルマッチ」として実施した明治安田生命J1リーグ第13節、鹿島アントラーズ対名古屋グランパスを、NHK総合テレビで枠を拡大して生中継いただきました。さらに、同じ時刻にキックオフした明治安田生命J2リーグ、J3リーグの全7会場の試合も、各地のNHKローカル放送局を結んでの同時中継が実現しました。他にもスペシャル番組を数多く放送いただき、中でも視聴者やサポーターから募集したJリーグを巡るさまざまなエピソードを、ドキュメンタリー仕立てで紹介する特別番組「Jリーグと私 30年の物語 」(以下「Jリーグと私」)は、ファン・サポーターだけでなく、普段Jリーグをご覧にならない方からも大きな反響がありました。本日は特別座談会ということで、NHKから試合の中継や特別番組の制作に携わったお二人にお越しいただきました。Jリーグメンバーと共に、今回の取り組みの裏側を伺います。未来のJリーグの発展に向けたヒントを得ることができればうれしく思います。
NHK五月女 清彦さん(以下、五月女)Jリーグが開幕したとき大学4年生で、翌年NHKに入局しました。入局してすぐに「サンデースポーツ」というスポーツ番組に配属になり、スポーツの中継や番組を長くやらせていただきました。2022年5月に担当替えがあって、Jリーグ30周年記念事業の試合中継がちょうど私に回ってきたんです。サッカーの仕事は一番長く思い入れもあったので、話を聞いたときにはプレッシャーを感じつつも、とても楽しくやらせていただきました。
NHKエンタープライズ 関 英祐さん(以下、関)私はNHKに入局してから報道や編成を担当し、2022年にNHKエンタープライズに移りました。その前の年ぐらいに、スポーツが地域に与える勇気や希望を伝える番組として「スポヂカラ」という番組を立ち上げ、続いてJリーグ30周年の企画を同じコンセプトで、さまざまな人々の物語をミニ番組やドキュメンタリー、特集番組にする機会に恵まれました。
Jリーグ 岩貞 和明(以下、岩貞)私はJリーグでマルチメディア事業本部に所属しており、放映権や映像周りを担当しています。NHKさんとは、ライツホルダーという立場と映像二次利用や映像を用いてのプロモーションで連携させていただく中で、スペシャルマッチとドキュメンタリー番組のお願いをさせていただきました。
Jリーグ 前田 章門(以下、前田)私はプロモーションを担当しており、いかに地上波でJリーグを露出していくかに注力しています。30周年を迎えるにあたって、NHKさんとも何か連携できないかと考えていたところで「Jリーグと私」に結びつきました。
全国7会場を中継で結んだサッカー版「ゆく年くる年」
五月女一連の企画の核になったのは5月14日のJリーグ30周年スペシャルマッチのNHK総合テレビでの中継ですね。局内でいろいろな番組の担当者に声を掛けて、Jリーグを取り上げてもらおうというところから始めました。5月3日に放送した「Jリーグと私 30年の物語 スペシャル」という番組を一つのピークにして、全体の核となるJリーグ30周年スペシャルマッチの中継へとつなげていく流れでした。
岩貞Jリーグサイドからの目線では、30周年の節目を迎えるにあたり、どのように5月15日の「Jリーグの日」に向けた山場をつくっていけるかという挑戦でした。いろいろと調整し、最終的には30年間でクラブの裾野の広がりを表すという意味でも、5月14日の日曜日に全国の放送局同士を結んで、同じ時間に各地でJリーグの試合をやっているのが良いのではないかと軸が定まりました。五月女さんのおっしゃる通り、5月14日に向けてさまざまな関連番組を展開していこうとなりました。
関連番組の企画の方は、2022年春ごろにNHKさんと連携を開始しました。企画を考えるにあたって、私の中では正直、過去の歴史を振り返るプレー集というのは、これまでの周年事業で一通りやってきたという思いがありました。そこで、同じ企画を繰り返すのではなく、「切り口を変えて何か一緒にできませんか」と提案させていただき、NHKエンタープライズさんと具体的な企画を詰めていきました。ドキュメンタリー番組「Jリーグと私」はそうして生まれた企画ですね。
Jリーグ30周年に関連してNHKで放送された主な番組
放送日時・放送波 | 番組名 |
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5月5日(金祝)他 Eテレ(教育)他 | みいつけた! サッカースペシャル |
5月3日(水祝) /5月14日(日) デジタル総合1他 | Jリーグと私 30年の物語 スペシャル |
5月5日(金) デジタル総合1 | インタビューここから 元プロサッカー選手森山泰行 |
5月7日(日) デジタル総合1他 | サッカーの園~究極のワンプレー~ Jリーグ30周年SP歴代最強チームはどこだ? |
5月9日(火) 他 デジタル総合1他 | スポーツ×ヒューマン 選“自分に嘘(うそ)はつきたくない”ゴールキーパー・権田修一 |
5月10(水)-5月14(日) BS1 | Jリーグ30周年名勝負選 5/10 伝説の静岡ダービー 1999年 清水エスパルス対ジュビロ磐田 5/11 21世紀最初の王座決定 2001年 鹿島アントラーズ対ジュビロ磐田 5/13 赤と青の頂上決戦J1最終節 2006年 浦和レッズ対ガンバ大阪 5/13 復興への誓い震災後初試合 2011年 川崎フロンターレ対ベガルタ仙台 5/14 Jリーグの夜明け 1993年 ヴェルディ川崎対横浜マリノス |
5月14(日) BS1 | Jリーグ30周年名勝負戦 1993年5月15日 ヴェルディ川崎×横浜マリノス |
5月14日(日) デジタル総合1 | Jリーグ2023 J1第13節Jリーグ30周年記念マッチ 鹿島アントラーズ 対 名古屋グランパス |
5月14日(日) BS1 | Jリーグタイム Jリーグ30周年スペシャル |
5月14日(日) デジタル総合1他 | NHKスペシャル Jリーグ サッカーにかける男たち 再放送 |
5月14日(日) デジタル総合1 | サンデースポーツ 拡大版 |
5月30日(火)他 Eテレ(教育) | 天才てれびくん 30周年Jリーグと同い年コラボ! |
5月30日(火)他 デジタル総合1 | 100カメ 川崎フロンターレ |
NHKクロニクルより抜粋
関私が当時、ちょうど編成に関わっていたのでお話ししますね。いろいろな編成の考え方がありましたが、日曜日の方が編成の自由度が高く、枠の長さも圧倒的にありますし、土日にJリーグ中継をやっているという習慣性もあるため、最終的に日曜日の編成が良いのではと提案させていただきました。
岩貞自分が住んでいるエリアでテレビをつければ、ホームチームの試合が見られ、ホームゲームがない地域はJリーグ30周年スペシャルマッチの鹿島対名古屋が見られるという環境をつくれたことは本当に良かったです。スペシャルマッチでは、プロモーション担当の前田が携わっていた、アーティストのRADWIMPSさんやZORNさんらの生演奏による周年記念セレモニーをやりました。RADWIMPSさんに制作いただいたJリーグ30周年記念アンセム「大団円 feat.ZONE」のライブ演奏がしっかり放送に乗るだけの放送枠を確保いただいたことも本当にありがたかったです。
五月女国立競技場以外にも5月14日に開催される試合のうち、全国7つの試合会場で同時に中継を結びました。国立で行われる生演奏のセレモニーもしっかり放送して、かつ7つのスタジアム全てを中継で結びたいとなると、前後に30分ぐらいずつは時間が欲しい。通常のJリーグ中継で2時間強の放送枠のところを、今回は約3時間へと拡大しました。
岩貞キックオフ時刻も7会場全て13時34分から35分の間にしました。
対戦・放送情報 |
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J1 アルビレックス新潟 vs. 横浜F・マリノス(NHK新潟) |
J1 京都サンガF.C. vs. セレッソ大阪(NHK京都・関西エリアで放送) |
J1 アビスパ福岡 vs. サガン鳥栖(NHK福岡・NHK佐賀) |
J2 いわきFC vs. ブラウブリッツ秋田(NHK福島・NHK秋田) |
J3 ヴァンラーレ八戸 vs. いわてグルージャ盛岡(NHK青森・NHK盛岡) |
J3 FC今治 vs. 愛媛FC(NHK松山) |
J3 鹿児島ユナイテッドFC vs.FC琉球(NHK鹿児島) |
岩貞そうですね。やったことがなかったので、どうなるんだろうと思う半面、私も非常にわくわくしました。
五月女J1からJ3まで全てのカテゴリーを同時中継でつなぐ、Jリーグで初めての挑戦ということもあり、解説者も各地の中継班も、みんな非常に楽しそうでしたよ。まさに「ゆく年くる年」ですよね。各地の中継班の皆さんに事前に説明したときも「これはサッカー版のゆく年くる年です」とお伝えしたら、何をやりたいのかすぐに理解してもらえましたね。
不測の事態を避けたくて各地の神社参り
五月女いろいろ意見はありましたが、結果としては30年前(の開幕節)と同じカードが決まったのはすごく良かったですね。あのジーコのハットトリックが生まれた試合というので、プロモーションは非常にやりやすかったです。
前田この企画は2020年初頭のコロナ禍に入ったあたりから、考えを温めていました。スペシャルマッチのセレモニーの演出内容もそのころに個人的に考えてはいました。放送があるかもしれないとは聞いていたのですが、「限られた放送枠の中に収まるのか」と、最初の段階で壁にぶつかりましたね。その時点では楽曲の尺も当然決まっていなくて、ただ、演奏時間を十分に取るとなると、セレモニー全体が長くなるだろうと予想していました。そんな曖昧な状況でNHKさんに相談させていただき、もしスペシャルマッチを放送することになったら枠を広げてほしい、と無茶を言いました(苦笑)。最終的にはライブ演奏で8分程度かかるとお伝えし、確実に通常の放送枠では収まらなかったんですが、NHKの皆さんが局内で掛け合ってくださり、総合テレビの放送枠を3時間も確保してくださったんですね。それがなければ、全国各地に周年セレモニーが届けられなかったので、本当にありがたかったです。
五月女本当に子どもたちがすごく良かったですよね。祝祭感を感じました。僕らとしては、そのセレモニーも全国に届けたいとなると、放送枠のどこにはまるんだろうとタイムスケジュールとにらめっこして。結果的に試合前の放送の流れは、J1・J2の4試合(4局)をリレー中継して、国立でのセレモニーに戻って全局で放送して、続いてキックオフに間に合うようJ3の3試合(3局)をリレー中継する、という順番になりました。
五月女そうなんです。各局とも13時05分に放送を始め、まずは各地の模様を中継しました。4会場をつないでリレー中継をやり、国立競技場をキーステーションにして、最初にJリーグ30周年記念アンセム「大団円feat.ZONE」生演奏に乗せた周年セレモニーを放送しました。終わって3会場のリレー中継をやって「じゃあ皆さん、それぞれ地元の試合をお楽しみください、また後ほど」と13時28分で各地の放送に切り替えて。それぞれの試合が終わってから15時40分ぐらい、ちょうどジーコさんのインタビューが放送されるあたりで各局が再び国立競技場に帰ってくる、という流れでした。試合は各ローカル局で地元のチームの対戦を見て、試合前の周年セレモニーや、試合終了後はみんなが同じ映像を見届けられるようにしました。さらにことしはアプリの「NHKプラス」でも、総合テレビで放送している試合のライブ配信ができました。地方の皆さんは、ローカル局の試合と、NHKプラスで配信される国立競技場のスペシャルマッチの試合を、同時で両方見られる状況をつくることができました。
五月女地震など不測の事態が試合中継を妨げるのは避けたいな、と切に願っていましたね。NHK総合テレビは、地震などが起こると多くの場合ニュースを挟むことになります。今回のスペシャルマッチの試合中継は、7会場全てをつなぐとあって、さすがに神頼みしましたね。スペシャルマッチの対戦カードが鹿島対名古屋でしたので、鹿嶋にある鹿島神宮、愛知にある熱田神宮、そして国立競技場から近い明治神宮と、試合中継の仕事で訪れるたびに無事に中継ができるよう祈願してきました。
(一同驚く)
前田セレモニーに携わる運営や演出チームも、天候は設営やリハーサルのときから心配していました。5月13日の前日リハーサルから雨が降ったりやんだりで、RADWIMPS さんのステージもそうですが、セレモニーに参加してくれた吹奏楽部の生徒の皆さんにとっても、楽器が濡れると演奏に影響します。雨天時の対応も準備はしていましたが、そこは一番苦労しましたね。
普段からの信頼や積み重ねがあってこその成功
五月女この試合に関しては苦労よりも、Jリーグさんやローカル各局と一緒につくり上げたという記憶が私の中ですごく強いんです。しいて言えば、いつもJリーグ中継を担当しているデスクを、本人も現場に行きたかったでしょうが局に残して、各局への連絡やリレー中継の切り替えを担ってもらったこと。彼には最大の功労者だと言ってあげたい。あとは先ほども申した通り、天気が心配だったことでしょうか。天気予報がどんどん悪くなって「これはまずい、頼むぞ」と思いながら。
岩貞撮影用のヘリコプターも出してくださいました。
五月女はい。30年前の開幕セレモニーの映像と重ね合わせたかったので、ヘリを出しました。雨だと飛行コースも変えなければいけない可能性があります。最後の最後まで飛べるか分からなかったんです。
岩貞NHKさんとご一緒させていただいて、今回だけでなくもうずっと、Jリーグが開幕した当時から今日まで、普段からやりとりをさせていただいています。そういう意味では、撮影したい絵作りなどの相談もかなりスムーズで、そうした信頼や積み重ねがあって、当日の成功に無事つながったのかな、と思っています。
五月女いわきFC、愛媛FC、鹿児島ユナイテッドFCなど、30年前の開幕時にJリーグクラブがなかった地域に今こうしてJリーグのクラブができて、同じ時間にキックオフしていって。福岡の会場だったと思いますが、非常に天気に恵まれた会場もあって。関東の方は、曇りと雨を行ったり来たりしていたんで、東京でモニターを通じて各放送局の中継の様子を見ながら「あ、日本って広いな」と。「今まさに7つの会場をつないでいて、これから同時にキックオフして試合が行われるんだな。Jリーグは30年たって広がったな」と、同時キックオフのあの瞬間、強く思いましたね。
サポーターの皆さんが口々に番組企画へ感謝の言葉
関Jリーグは地域とのつながりを非常に大切に生まれたので、それぞれのサポーター、地域の人々、クラブのスタッフも含めて、いろいろな方々のエピソードを募集しようと方針が決まりました。そのエピソードを番組にして、一人一本のストーリーにしながら、5月15日のJリーグの日に向けて、長い特集番組を制作しようという流れが徐々に固まっていきました。
岩貞最初にNHKさんからは、それぞれの地域・クラブとファン・サポーターの結びつきがこんなに増えているんだということを一つずつ紹介したいと説明を受けました。聞いただけでも温かくなるような企画で、ぜひやりましょう、と。大賛成でした。
関Jリーグさんでも特設サイトを作ってもらい双方で募集しました。
前田まずは、2022年11月末から、私たちJリーグ側で「Jリーグと私」の特設サイトを公開して、同時にエピソードの募集を開始しました。
関放送が始まってからも順次集まって、最終的にはNHK側で約500件、Jリーグ側で約400件、トータルで900件近く集まりましたね。その中から各5分のミニ番組を20本作りました。それ以外に、うちがJリーグ中継をする際に、ハーフタイムに紹介する1分版のミニ枠用も作りました。それが1本の中で4つのエピソードを紹介していますので、結局80~90エピソードぐらいは紹介できたと思います。
関はい。私は全部に目を通しまして、番組を一緒に作ってくれる制作会社のチームのメンバーにも熟読してもらって精査しました。
前田再放送もあるので、放送の回数もかなりの数になりましたね。
関1本につき最低10回は放送していますね。
前田私は応募してくださった方と取材依頼など、直接メールでやりとりさせていただいたんですね。そこでは、サポーターの皆さんが口々に番組企画への感謝の言葉を述べていました。皆さんが快く取材を受けていただくとともに、やりとりのメールの中で「Jリーグやクラブを応援しています」という言葉をいただいて、とても励みになりました。
関エピソードを投稿いただいた方とNHKをつないでいただく手続きの部分の作業で、かなりJリーグの前田さんのお世話になりました。
前田残念ながら連絡がつかなかった方はいらっしゃいましたが、誰一人、断られることはなかったです。むしろ「喜んで受けます」と言ってくださる方ばかりでしたので、本当にありがたかったです。
スポーツがもたらした奇跡みたいな話を番組で
岩貞NHKの地方局の皆さんも、独自に「Jリーグと私」で特番をやってくださいましたよね。
関はい。地方局は地方局で、自分たちの「Jリーグと私」というのを作っている局もありました。NHK山口放送局だったと思いますが、非常に熱心で、毎週月曜日、16週にわたって放送していました。それから、番組だけではなくイベント展開などもあって、例えばNHK新潟放送局では、アルビレックス新潟の試合の日に、スタジアムに特設ブースを作り、新潟の皆さんからのエピソードをパネルで紹介したり、「Jリーグと私」のミニ番組を上映したり、さらに、その流れでトークショーを展開する、といったことをやっていましたね。それから、この番組と中継が組み合わさって、エピソードに出てくださった方が、実際にスタジアムに応援に来られることもありました。
五月女ありましたね。声を出せるようになった少年のエピソードですね。
関言語障がいのある少年で、うまく言葉が発せられないことから、声を出すことそのものを苦手としていた方なんですが、お母さんがアルビレックス新潟の試合に何度か彼と一緒に足を運んでいるうちに、サポーターが選手の名前をチャントで連呼する環境の中で、一番初めに発した言葉が「しんご」という言葉だったそうなんです。当時新潟に所属していた鈴木慎吾選手のことですね。息子が初めて発した言葉が「慎吾」だったと。一緒にいたお母さんがそれを聞いてびっくりされて。ある意味で、スポーツがもたらした奇跡みたいな話だなと思い、番組で取り上げました。非常に大きな反響があって、SNSでも「感動した」などの言葉をたくさんいただきました。
五月女新潟がJ1に昇格した今シーズンの3月の試合でしたね。ちょうどわれわれNHKも中継に入っていて、主人公の方が、今日も新潟の応援にスタジアムに来ていると伺って。クラブの広報と連絡を取って、スタンドのどこに座っていますか、とディレクターが取材してきまして。ハーフタイムに「Jリーグと私」の彼のエピソードを放送して、承諾を得て観戦しているところを撮影し、実況のアナウンサーに「今日もスタジアムに来ています」と紹介してもらったことがありました。そのときは、ドキュメンタリーと中継の相乗効果が出せたと思いましたね。
五月女僕らも毎試合の中継のたび「Jリーグと私」にエピソードを寄せてくれた人は、今日も観戦スタンドにいらっしゃるのだろうな、と思いながらやっていました。Jリーグで出会って結婚なさった、というエピソードも非常に多かったですよね。
五月女ええ。今はお孫さんを連れて観戦に行っています、とか。皆さんこのスタジアムに今日もいらっしゃっているのだろうな、と。
関番組への反響が非常に大きかったのは、練習場で倒れて亡くなった元Jリーグ選手の松田直樹さんのお姉さまがAED(自動体外式除細動器)の普及に動かれて、Jリーグの全てのスタジアムでAEDが配備されるようになったというエピソードですね。非常に深く大きな話だと思いました。ほかにも、地域と共にあるJリーグの理念を映し出すようなエピソードが数多く寄せられて、そうした側面でも非常に意味のある企画だったと思っています。
連携を通じてさまざまな年齢層の接点をつくる
関偶然、春畑さんがアコースティックギターで演奏している映像をウェブ上で見つけまして。最初、ウェブ上の音源を使おうと思って春畑さんに相談したところ、ぜひ新たに録音させてほしい、とおっしゃってくださいました。放送でアコースティックギターのJ’S THEMEを流したところ、ものすごく評判が良いんです。懐かしさとか人肌感もありながら、Jリーグという存在も感じさせる。あの音楽で番組のイメージがすごく深まったかな、と思います。実は制作費用などの調整はいろいろ必要だったんですが(笑)、やって良かったな、と思いましたね。
五月女あの曲は各局からも貸してほしいという要望が多く、楽曲を配りました。夕方のニュースに使いたいとか、中継のハーフタイムでエピソードを募集するときに使いたいとか、ずいぶん需要が高かったですね。
五月女中継に関しては、参加各局からも楽しかったという話をもらいましたので、またぜひできたらいいな、と思っています。また、アプリのNHKプラスで同時に配信できたことで、2画面同時にJリーグ中継をお楽しみいただけたことも大きかった。JリーグとNHKの連携を通じて、双方でさまざまな年齢層の方々と接点をつくれたと思います。
関毎回のJリーグさんとの特集番組は、若い人が結構見てくれて、そこはやはりNHKにとっても非常に良い効果であったという評価でした。この企画を通じて、スポーツの異なる側面、エモーショナルな部分といいますか、私たちが伝えたかったことはきちんと届いていたのではないかと思いますね。
岩貞Jリーグにとっても、NHKさんは各都道府県に放送局があり、最も大事なパートナーの一つです。クラブにとってもそうだと思います。30周年を機にさまざまな企画にトライしてみて、Jリーグの価値、例えばスポーツを通じて地域を豊かにすることや、社会連携など、理念が実現できているかを確かめるという意味でも、非常に良い機会だったと思います。
前田プロモーションの面でも、NHKさんとご一緒させていただいて、これだけ地上波でJリーグを取り上げていただいたのは非常にありがたいことです。
全国隅々へいつまでもJリーグを届けていきたい
五月女スペシャルマッチの中継を準備する過程で、これまでNHKで保管しているJリーグの名シーンなどのアーカイブ映像を振り返ったのですが、残っている映像はやっぱりすごく印象が強いな、と思いました。これからも、みんなが覚えていて語り合える、そういうシーンをNHKはJリーグさんと一緒に残していきたい。それとともに、ライブで伝えることはわれわれの最大の価値だと思うので、これからもパートナーとしてぜひ、ライブで続けていきたいです。テレビでもタブレットでも、NHKプラスを通じてでも、やはり「みんながつながっている」ということがかなり重要だな、と。いつでもどこでもJリーグに触れられるように、全国隅々まで、いつまでもJリーグを届けていきたいですね。
関スポーツの一番の魅力は、試合やプレーそのものにあると思います。プレーの素晴らしさ、全力で戦う姿、素晴らしい技術、選手たちが育っていく姿など、競技そのものが発展することがまずは基本にあり、私たちも期待しています。その中から注目する選手や、地域の人たちのつながりなどの新しい物語が生まれて、われわれがドキュメンタリーや企画などで放送を通じてもっと紹介できるようになれば、すごく良い循環が生まれるのではないかと思います。
岩貞叱咤激励をいただくのではと思っていましたが、励みになる温かい言葉をたくさんいただき、ありがとうございます。
五月女私たちの放送を見ている人々の中には、確実に未来のJリーグ選手がいるわけですよ。そうした子どもたちのために、サッカーの良いところ、素晴らしいところ、「こういうところを真似するといいんだよ」というところを見せてあげたい。「そういう中継にしようね」といつもスタッフに伝えています。私たちは、スポーツ文化、サッカー文化として放送を出しているんだという気概を常に忘れないようにと、いつも思っています。
日本放送協会 福岡放送局五月女 清彦
1994年NHK入局。スポーツ担当はキャリア合計で22年、うち18年で中継に携わる。2023年7月から福岡局で九州・沖縄のスポーツ中継を担当。FIFAワールドカップは98年と02年は休暇を取って、06年以降の4大会(ロシア以外)は仕事で現地へ。アメリカ・ニューヨーク駐在時は大谷翔平選手のMLBデビュー年も中継。
株式会社NHKエンタープライズ関 英祐
1988年NHK入局。ディレクター、プロデューサーとして主に「NHKスペシャル」などのドキュメンタリー番組を制作。「クローズアップ現代」編集責任者、BS1編集長などを経て現在は(株)NHKエンタープライズ・エグゼクティブプロデューサー。1993年のFIFAワールドカップ予選をきっかけにサッカー観戦にはまり、今はJリーグから欧州リーグまでが週末の楽しみ。
Jリーグ岩貞 和明
2007年に入社。事業部門やファンディベロップメント、プロモーション業務などを担当。現在はマルチメディア事業本部長として、放映権、デジタルアセットマネジメント、中継映像制作など映像ビジネス全般を統括。
Jリーグ前田 章門
映像・データ関連事業やプロモーション業務などを担当。現在は事業マーケティング本部プロモーション部に所属。
構成:石川 聡 文・江﨑 康子
デザイン:永井 康太(合同会社マトイクリエイティブ)
撮影:下屋敷 和文