チェアマンインタビュー
- 総入場者数最多を記録
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― 2024シーズンは年間総入場者数が過去最多の12,540,265人を記録しました。
もちろん20クラブになったJ1の試合数が増えているということはありますが、JリーグYBCルヴァンカップなどJリーグが今までやっていた試合を含めて考えても、お客さんの数が増えているというのが、一番良いことですね。J1は20クラブにしたことで、地域での露出という観点からも、いろいろな地域でより多くJ1の空気が日本中に伝わったかなとは思っていますし、J2・J3のクラブがある各地域での露出が増えたことも、結果につながっていると思います。
― メディア露出が増え、Jリーグを目にする機会も多くなった印象です。
私がチェアマンに就任した3年前よりもローカルで約4倍という数字になっています。それだけ自然とJリーグに触れる回数は増えているのかなとは思います。あとは、首都圏にいるファン・サポーター、またはファンになる可能性のある人たちへのアプローチのきっかけとして、国立競技場での開催がうまく作用していると思います。初めてJリーグの試合観戦に訪れる人や、昔、Jリーグの試合に来たことがあるけど、最近は来場していなかった人たちに一定数足を運んでもらっています。その人たちが、再び国立競技場の試合に来る、あるいは国立競技場以外のホームゲームに行っている割合というのも、しっかりデジタルで追えていますので。
― 招待キャンペーンの効果は大きいでしょうか。
一昔前とは時代が変わって、デジタルマーケティングをどのくらい精度高くできるかというところが、今このタイミングでのポイントだと思っています。若い世代も含めたデジタルでの集客は、仕組みとしてリーグもクラブもできるようになりつつあります。そこだけでは足りないので、地上波の露出を生かして、どのようにデジタルの方にも興味を持ってもらうようにしていけるかという、露出とデジタル投資のセットが今の勝ち筋かなと思っています。
- 2024年のリーグ戦を振り返って
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― 明治安田J1リーグではヴィッセル神戸が優勝しました。昨シーズンに続く2連覇となります。
各クラブの実力差が大きくない中での連覇はすごいと思います。やはりクラブが投資をして勝つというのは、プロとしての本来の姿だと思います。海外でもプレーした選手を中心に頑張ってきた中、山口蛍選手や酒井高徳選手はけがで欠場することも多かったですが、大迫勇也選手と、Jリーグ最優秀選手賞の武藤嘉紀選手の存在は際立っていました。終盤戦の第37節、柏レイソル戦で武藤選手が決めた同点ゴールなど、大事なときに仕事ができるというのは大きい。天皇杯(JFA第104回全日本サッカー選手権大会)との2冠も達成して、勝てる集団という感じがしましたね。本当に強いというイメージが周りにも伝わったのではないでしょうか。
― 連覇達成で、今後は一つの時代を引っ張っていくような存在になりそうですね。
そうなるかもしれません。でもサッカーのクラブは、選手は1年、1年、年を重ねていくので、若い選手、新たな中心選手をどうチームの中に置いていくかということがうまくいくと、強くあり続けることができるのではないかと考えています。
― J1で2位はサンフレッチェ広島。一時は首位を走りました。
広島は本当に良いチームをいつもつくる印象です。ミヒャエル スキッベ監督体制になって3年目。日本における新しいフットボール的な要素も見せてくれて、本当に素晴らしい。スタジアムも新しくなって、クラブとしても日本を引っ張っていく可能性を十分に見せたと思います。この15年ほどの間、フットボールにおいては良い影響を最も与えたクラブの一つだと私は思っています。それに加え、スタジアムビジネス含めクラブの売上高が約2倍になる見込みです。クラブにとっても転換期かもしれませんが、日本のフットボールにとってもすごく大きな転換期の一つになるようなシーズンじゃないでしょうか。
― FC町田ゼルビアはJ1昇格1年目で3位という結果でした。
現場の努力と合わせて、クラブが売り上げを大きくし、上手に投資すると、しっかり順位も上に行けるんだということが体現された結果だと思います。J1昇格1年目ですが、その点が秀でていたと感じてます。
― 東京ヴェルディはAFCチャンピオンズリーグ出場権獲得に迫る成績で、アルビレックス新潟はJリーグYBCルヴァンカップで準優勝しました。
素晴らしい結果だったと思います。ファン・サポーターを含めたクラブ全体の一体感とか、勝つためにはいろいろな要素が必要だけど、最も少ない費用で結果を出すというのはすごいことだと思います。J1も20クラブになり、優勝をリアルに狙えるクラブと残留を何としてでも目指すというクラブと、目標はそれぞれだと思いますが、少ない予算で、もっと成長していく途中の段階のクラブがサッカーの内容も含めてJ1に残ったというのは、これは本当に素晴らしいことだと思います。
― ファジアーノ岡山はJ2で16年を過ごし、念願のJ1昇格を決めました。
長かったですが、着実に力をつけたのではないかなと思います。クラブ力的なものを感じます。来シーズン、上のカテゴリーでどう戦っていくのかがとても楽しみです。
― 明治安田J3リーグでは大宮アルディージャが優勝しました。
大宮は歴史も含めて、クラブのサイズは以前と比べると小さくなったのかもしれませんが、成績的には圧倒していました。もちろんそのぐらいの力のあるクラブではあったと思います。
― レッドブル参入はリーグ初の外資による買収でした。
世界のサッカーマーケットが日本にどう注目するか、注目を集めるかということが、Jリーグにとってもクラブにとってもすごく大事なことです。閉じた中で興行しているだけではないのがJリーグなので、そこに関しては一定の評価をされたと考えればいいのかなと思います。
― FC今治とカターレ富山もJ2に昇格しました。
仲間が集まったときのパワーがクラブを強くするのだと思いますが、まさにそのような感じなのではないでしょうか。人口も、もっと大きなところがJ3にもいっぱいある中で、素晴らしいことだと思います。もちろん目指すところはまだ先なのでしょうが、一足飛びにはいきません。10年前には想像できなかったものが、地域には生まれたはずです。
- 新方式になったルヴァンカップ
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― ルヴァンカップの大会方式変更で全60クラブが参加する形になりました。
私は、もともと60クラブみんなが参加した方が良いと思っていましたので、とても良い形式だと思っています。あとは、地域のJ2・J3のクラブに対して、J1クラブの空気を、その地域でも感じてもらえたらとずっと思っていましたので、今年変えられたのは良かったなと思います。また、印象やインパクトでは、パートナー各社にも十分満足してもらえるものは提供できたと思います。
そして、J2・J3のクラブでも勝てば上のカテゴリーのクラブと試合ができる、勝つと良いことがあるという当たり前のことを、いくつかのクラブが体験できたのは、すごく良かったと思います。選手や地域の人にJ1を感じてもらうこともそうですが、経営面でローカル、下のカテゴリーのクラブが収入を得ることのできるチャンスが生まれました。平日の夜の試合に関わらず入場者数が7,677人ととなった鳥取のようなクラブは、運営面でも初めて分かることもあったと思います。ファイナルが素晴らしかったということも含めて、トータルですごく盛り上がった大会になったと思います。 - さらなる成長に向けて
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― Jリーグが掲げている2つの成長戦略について伺います。
トップクラブには、サッカーの競技成績でアジアでも圧倒したり、国内を代表する、という部分はもちろんあってほしいですが、そんなに簡単にはいかないと思います。それを実現するためには、クラブの実力、実体が成長しないといけないので。例えばトップ10の入場者数も、魅力を感じてくれるからお客さんが増えるのであって、そこに来てもらえるだけの器、つまりスタジアムが、良いものが用意されているから、そこに多くの人が集まれる。そこをどうやってここからの10年で、クラブ単体での実力をつけていくかというところはすごく重要だと思っています。2023年と比較して114.4%と、過去最高の入場者数になりました。これも、望む世界観に近づいているのだと思います。
― スタジアムの魅力という部分ではサンフレッチェ広島、V・ファーレン長崎、ツエーゲン金沢の新スタジアムが開業しました。
スタジアムが大事だということはもう間違いない事実です。そして、それは一回造ればそれで良しではなくて、スポーツビジネスをやっていく中では、少しずつバージョンアップしていかない限り、やっぱり止まってしまう。世界の方もピタッと止まってくれるならそれでいいけれど、そうじゃない中で競争をしていくなら、スタジアムというのはすごく大事なものです。
クラブが急激に大きく成長するいくつかの要素がある中の一つが、新スタジアム。広島、長崎、金沢はその成長するチャンスを得たのだと思います。長崎は残念ながらJ1昇格に届きませんでしたが、上のカテゴリーに行くのではないかと期待させるだけの何かは持っていました。あのスタジアムに行きたいということも含めて、やはりフットボールが今まで見ていたものとは、違うものに見えるはずだと思います。― 欧州拠点としてJ.LEAGUE Europeも本格的に稼働します。
世界のサッカーマーケットで勝負していこうとするなら、最先端というか、欧州とどのようにつながっていくかということは、もう当たり前で、不可欠なことだと考えています。日本人選手やJリーグというものを、欧州をはじめとした海外ではまだ正確に捉えられていないと思います。日本人選手が移籍で金額的にも過小評価されているという点もあるのは事実なので、自分たちをよく知ってもらい、向こうの良いところを近くで体感するということは絶対に必要だと思っています。世界とよりつながるために現地、今回はロンドンにオフィスを置いて、いろいろな活動を行います。物理的に遠く離れているということと、日本が今まで国内の競争意識が強かったあまり、世界にどんな監督がいて、どんな選手がいるか、サッカーがこう変化していくだろうということを、スポーツダイレクター(SD)やゼネラルマネージャー(GM)など、フットボールのトップの人はもっと感じた方が良いと思います。また、世界トップレベルのリーグ、クラブと共に、同じようなことを考えるということも大事なので、選手や監督だけではなく、フロントスタッフも含めて世界とJクラブをつなげていくことをしていきたい。外資をどう獲得するかということも重要なポイントです。
― 積年の課題だった選手契約が大きく改定されました。
もちろんABC契約が設定された時代背景は理解していますが、1999年からなので、もう25年も前のことです。その当時の世界のサッカーシーンにおけるJリーグと今はもう全く違うわけで、できる限り早く検討したいと思っていました。もちろん、全部撤廃できれば良いのですが、25年も続いてきたものをすぐに無くすとなると、一筋縄ではいきませんでした。前年に加入した選手と翌年の選手で大きく報酬が違ってくるのは論理的にもおかしいので、徐々にそれは撤廃されるでしょう。
選手に価値があると判断するのはクラブの責任であって、それは日本でも、世界の国でも、誰がどう価値をつけるかというのも、競争です。ある意味では当たり前のことです。また、選手にはより魅力的に見える世界でないといけない、と思います。― クラブの競争も促されることになるでしょうか。
社長やGM、SDは、これからより実力のある人が評価される時代になっていくのだと思います。選手の年俸を決めるということは、彼らが、どこにどう投資をするかを考えるうちの一つでしょう。やはりJリーグが国内のエンターテインメントとしてだけやっているわけではない、ということが分かったら、Jリーグも変わってきたということなのだと思います。
- 気候アクションへの取り組みがスタート
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― Jリーグ×小野伸二 スマイルフットボールツアー for a Sustainable Future supported by 明治安田が開始しました。
私としては、セルジオ越後さんが昔、全国を回っていたというのはすごいことだなと思っていました。どのようにサッカーを普及していくかということも含めて、あれは「見せられる人」が絶対やった方が良い。私は以前から小野伸二特任理事にはこういうことをやってもらいたいと思っていました。現代風にしたときに、サッカーの楽しさだけではなく、サステナブルなこともリアルに子どもたちに少しでも届くように伝えていった方が効果があると思いました。サッカーを見せるという部分では“シンジ”は適任だと思っています。
― 今年も豪雨などで中止や中断になった試合が多くありました。
気候変動問題を何とかしないと、といっても簡単に何とかできるものではないですが、サステナビリティについては、イングランド プレミアリーグがかなり先を進んでいる感じがあって、コミットメントの度合いがかなり高い。それは気候変動問題について、クラブというよりは社会全体でそこへの重大な意識を持っているからこそ、地域の中心であるサッカークラブが意志をしっかりと示さなければいけない、という気持ちが強いのだと思います。そこは見習わなければいけない部分だと思っています。
日本人にとってはまだなじみがないのかもしれないですが、リーグとクラブ全体で、それを常に大事なものとしてやっていくことが必要だと思っています。 - 2025シーズンに向けて
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― 来シーズンはシーズン移行の前年で、2月開幕が最後となります。どのような1年になりますか。
現在のシーズン制の最後の年だから特別なことはないです。選手や現場は目の前の1試合、目の前の1シーズンを今まで通り必死にやってほしいですし、それで良いと思います。その思いで目の前の1試合ずつをやっていくというのが現場の性質です。クラブやリーグ、その周りの人たちが、次の何年後の準備をしっかりと今まで通りやっていくということの繰り返しで良いのではないでしょうか。どこまで先を意識して進んでいくかをフロントサイドの人たちがしっかり用意してあげることが、選手たちのためにも絶対に必要となるはずなので。
― クラブの経営陣の方々はいろいろ考えることが多く、頭をフル回転させるシーズンになりますね。
そうかもしれません。われわれもそうです。でも何かが変わるときには、絶対にチャンスがあるはずなので、それを見つけて生かす、考えようによってはすごく楽しい時期かなとも思います。
スタジアムでの観戦や試合中継を見てくれるなど、新しい年も、より多くの人に関わっていただけると思います。新規のファンも含めたファン・サポーターの皆さまにわれわれが良いものをしっかり届けていく。その繰り返しの作業をよりバージョンアップできるかどうかが肝になります。