SEASON REVIEW 2025

mainimage

MANAGEMENT

Jリーグの人材戦略

創設から33年、リーグは今、激化する国際競争のただ中にあり、変革の重要なフェーズを迎えている。欧州トップリーグに伍していくためには、ピッチ上の進化のみならず、それを支える組織の継続的な成長が不可欠である。本年度、リーグは未来への投資として創設以来初となる新卒採用に踏み切り、同時に全60クラブの組織力向上に向けた連携強化を推進した。これは、現状維持に甘んじることなく、未来のサッカー界を担う人材を自らの手で育て、業界全体の魅力を高めていくという「攻め」の戦略に他ならない。

初めての新卒採用:「未来への投資」

リーグ創設から初めて、公募による新卒採用に踏み切ったのは、国際競争力の強化と、未来のファン層である若者世代への効果的なアプローチという、二つの大きな戦略目標を達成するためである。
中途採用による即戦力への依存から脱却し、長期的な視点で組織の未来を担う人材を内部で育成することは、持続的な成長を実現するために不可欠と判断した。

採用の背景

新卒採用を開始した背景には、組織の継続的な成長と変革を実現するため、以下の3点の目的があった。

国際競争力の強化 海外リーグとの競争の中で、既存の枠組みにとらわれない、非連続な成長をけん引する「挑戦者」のマインドセットの獲得
人材の多様化 職員の平均年齢が43歳に達し、組織の価値観のアップデートが難しくなっていくリスクを抱える中、若年層のファンにリーチするためには、同じ世代の感性を持つ人材の獲得の必要性
将来のコア人材育成 これまでの中途採用による即戦力だけでなく、リーグの理念と文化を深く体現し、10年後に経営の中核を担う次世代リーダーを計画的に内部育成していける組織への昇華
採用に向けての取り組み

優秀な学生を引きつけ、入社後にその才能を最大限に開花させるため、組織としての体制整備に注力。特に、待遇面での競争力確保と、入社後の成長を支援する仕組みづくりを重点的に推進した。
第一に、報酬体系を抜本的に改革した。他の民間企業に見劣りすることがないよう、同規模の企業をベンチマークとして報酬水準を再設計し、初年度年収を設定。優秀な人材にとって魅力的で、安心してキャリアを築ける環境を提供できるように人事制度の改定を行った。
第二に、人材育成ロードマップの検討を開始。入社後のキャリアパスや必要なトレーニングプログラムを体系化し、個々の成長を組織全体で支援できる環境整備を実施。また、管理職に対するマネジメント研修の実施、各部署の業務内容やプロセスの明文化、選択型教育機会のアップデートなど、新人の受け入れ準備をきっかけに全社の組織開発にも着手。これにより、「人を育てられる組織」への変革を本格的に始動させている。

mainimage
初となる新卒内定式の実施

Jリーグにとって発足以来初となる公募での新卒採用は、6,000人を超えるエントリーがあり、実際の応募者から算出された内定競争倍率は約300倍に達するなど、極めて高い関心を集めた。2025年10月1日に行われた内定式には野々村芳和チェアマンと川淵三郎初代チェアマンが登壇し、内定者を「変革期にあるリーグの将来を担うコア人材」と位置づけて激励。多くのメディアに取材いただき、この一連の動きは、スポーツ業界を支える若手の活躍の場を広げる一つの節目として期待されている。

mainimage
クラブとの連携強化:「リーグ全体の組織力向上」

Jリーグの持続的な発展は、それを構成する全60クラブの組織力向上なくしては成し得ない。各クラブがそれぞれの地域で強固な経営基盤を築き、優れた人材を引きつけ、育成できる組織となっていくことが不可欠である。そのために、リーグは各クラブの人事機能強化をサポートし、リーグ全体としての人材戦略レベルを引き上げることを重要な責務と捉え、具体的な取り組みを推進している。

人事責任者(ヒューマンオフィサー)研修のアップデート

各クラブの人事責任者であるヒューマンオフィサー研修では、より戦略的かつ実践的な議論の機会を設けた。Q&Aセッションでは野々村チェアマン自らが登壇し、クラブ経営者時代の経験を基に組織論や求める人材像について踏み込んだ議論を行ったほか、外部有識者を交えたパネルディスカッションでは「経営戦略と人事戦略の連動」や「クラブ間の人材交流」といったテーマが活発に議論された。これらの議論は、個々のクラブが独立して競争力を高めるという視点だけでなく、Jリーグというシステム全体の中で、いかに共に成長していくかという新たな視点を投げかけることとなった。

mainimage
クラブ人事ガイドブックを刊行

Jリーグは、ヒューマンオフィサー研修での議論や、各クラブが直面する具体的な課題に基づき、実践的なツールとして「クラブ人事ガイドブック」を刊行した。このガイドブックは、労務管理の基礎から評価・報酬制度の設計までを網羅しており、各クラブが人事制度を整備する上での具体的な指針として役立つ。クラブとリーグ、さらにはクラブ間のコミュニケーションを円滑にする「共通言語」としての役割も担い、リーグ全体の組織運営の標準化と高度化を実現する。なお、ガイドブックはリーグとクラブが協働して毎年改編することになっており、次年度版でも大幅なアップデートが予定されている。

今後の展望

リーグは、これからも「攻め」の人材戦略を推し進め、サッカー界全体の成長をけん引していく。今後の展望として、以下の3つの柱を強力に推進する。

新卒人材の戦力化

採用した新卒社員が、10年後にリーグ経営の中核を担う「組織の柱」へと成長できるよう、挑戦の機会を最大限に提供し、その成長を全面的にサポートしていく。新人が組織の起爆剤となり、組織全体に刺激を与え、Jリーグ全体の変革に寄与していけるようにする。

mainimage
クラブとの具体的な連携開始
複数のクラブから、採用や人材育成に関する連携強化の要望が寄せられている。リーグが保有するノウハウは積極的に公開し、連携を通じてリーグ全体での組織・人材強化に結びつけていく。
魅力ある産業への進化
人事制度や人材育成体系の整備を通じて、Jリーグだけでなくサッカー界やスポーツ産業全体が、労働市場において「選ばれる業界」となることを目指す。人材こそが最も重要な資本であるとの信念に基づき、未来への投資を加速させていく。

※掲載情報は2025年12月22日時点のものです

CATEGORY

RELATED POSTS