2021/06/02

2020年度クラブ経営情報開示(先行発表)メディア説明会レポート

Jリーグは5月28日、2020年度クラブ経営情報開示(先行発表)メディア説明会をオンラインで行い、3月決算の3クラブ(柏レイソル、湘南ベルマーレ、ジュビロ磐田)を除く昨年度在籍53クラブの状況を明らかにした。クラブ経営の透明性向上を図るため毎年、前年度の全体傾向やクラブ別の個別経営情報を報告している。

昨年度の状況を見ると、一言でいえば「コロナ禍の影響を大きく受けた決算」(村山勉クラブライセンスマネージャー)。単年度赤字クラブは19年度の23から34へ増加し、15年度以来ゼロで推移してきた債務超過クラブは10となった。だが「債務超過のクラブはもう少し増えるかと思った」と話すのは木村正明Jリーグ専務理事。「Jクラブは選手や社員の人件費、スタジアムの使用料など固定費の比率が一般企業に比べて高い。収入が落ち込んだ場合、資本金に余裕がないと債務超過にもろにはね返ってくる。資本に余裕のあるクラブは少ない。シーズン途中の補強をセーブするなど、固定費以外の経費をクラブがかなり切り詰める努力をしたと考えられる」と言う。

顕著だったのは入場料収入で、前年比約6割(123億円)の減少。新型コロナウイルス感染拡大の影響による超厳戒態勢でのリモートマッチ(無観客試合)や厳戒態勢下で「入場者制限がダイレクトに影響し、前年度の入場料収入の多かったクラブが苦しんでいる結果となった」(木村専務理事)。特にJ1クラブの減少が目立ち、この日発表された16クラブは18年度から19年度がいずれも増収だったが、軒並み減収に転じた。

一方、昨年10月の発表では赤字クラブが全体の約8割、債務超過クラブが約4割という見通しだったが、各クラブの損益改善によってそれぞれ約6割、約2割と減少した。これは「われわれの言うところの超厳戒態勢がシーズン終了まで続いた場合を想定してクラブに見込みを出していただいた」(村山マネージャー)ためでもあり、その後に「制限付きながら入場者を迎えてリーグ戦終盤を運営する中で、各クラブの努力によって改善した」(同マネージャー)。また、入場者数制限に伴い試合関連経費やチーム運営経費は減少。チーム人件費は微減となった。

こうした状況下で特筆すべきは、スポンサー収入が約1割(57億円)の減少にとどまったことだろう。コロナ禍で厳しい経営環境の中、地域におけるクラブの活動と価値、それに共感してサポートの手を差し伸べる企業の絆を示しているとも言えそうだ。もちろん、楽観はできず、この厳しい社会情勢下で企業も苦しんでいる。収益を上げるためには新規スポンサー獲得が必要だが、木村専務理事は「そのための場が失われている」と危惧している。「観客と選手が一体となって織りなす場の雰囲気が地元の貴重なアイデンティティー発露の場ということで企業が感動し、スポンサードに至るケースが非常に多い。入場制限がある中では、そういった機会がなかなかつくれず、新規の営業が非常にしづらくなっている」と語る。

以上のような状況を踏まえ、Jリーグは直接のクラブサポートとして、クラブライセンス取得のための財務基準緩和に踏み切っている。今年度も特例措置を継続し、その後に2年間の猶予期間を設けた上で24年度からコロナ禍以前の基準に戻す道筋を描く。クラブライセンスの不交付対象となるのは、3期連続赤字と債務超過。今年度末まではこれらを判定対象としない。猶予期間では、債務超過の解消に至らなくとも、前年度よりその額が増えてはならないといった条件を設定。3期連続赤字のカウントも始まる。もちろん、新型コロナウイルス感染状況や外部環境に大きな変化が生じた場合は、再検討や期間延長の可能性もある。

このライセンス基準緩和に加え、リーグが実施しているのが、スポンサー獲得成功事例を生かす取り組み。昨年初めて、100万円以上のスポンサー獲得について全国のクラブにヒアリングを行い、その事例を2度のJリーグ実行委員会で共有した。木村専務理事は「クラブはピッチ上ではライバルだが、そこに関しては協力し合おうということで、各クラブの協力を得てそのような動きをしている。これからも実施していきたい」と述べている。

なお、前述の3月決算の3クラブを加えた全56クラブの状況は、7月に発表予定。このように2段階発表となるのは、迅速な情報提供がJリーグへの信頼性向上などにつながり、クラブライセンス審査の透明性・公平性を担保すると考えることによる。

【参考資料】
Jクラブ個別経営情報開示資料はこちら

クラブ経営情報開示資料(2021.5.28)はこちら