FAN ENGAGEMENT
2023シーズン to Cマーケティング戦略
2023.12.25
Jリーグのto Cマーケティング戦略とは
スタジアム観戦を起点として、全60クラブのファンやサポーターを増やしていくマーケティング活動の総称である。具体的には、Jリーグと各クラブが連携し、JリーグIDを軸として「認知→関心→来場→リピート→定着」という一連の顧客体験を向上させる取り組みを実施している。
2023シーズンは、Jリーグを知っていても観戦経験のない認知未利用層とコロナ禍以降に観戦していない離反層を「重点セグメント」として設定した。2022年はもともとJリーグに関心が高い方に対して来場を促し、JリーグIDの登録や来場者獲得、リピートまでつなげることにフォーカスしていたが、2023年はさらに認知から関心につなげるため、ローカルの露出強化や30周年プロジェクトなどの関心想起型の施策を強化した。また、新規来場者を増やすための獲得型の施策も引き続き実施することで、2019年を超える過去最高の入場者数を目指した。
各調査結果
- マーケティングKPI
- 2023シーズンの公式試合の年間総入場者数は、イレブンミリオン(1,100万人)を達成し過去最高を記録した2019年に迫る歴代2位の10,965,170人で、前年比136.3%、2019年比99.3%となった。
- 9segs®調査結果(スタジアム観戦層、高関心層)
- Jリーグはファン層の拡大に向けた顧客戦略を策定するにあたり、マーケット全体の把握や施策の効果測定をより精緻に実施するため、顧客起点マーケティングのフレームワークである9segs®調査を2021年度から実施している。
調査は5層の「顧客ピラミッド」に関心度の要素を追加したマッピングであり、スタジアム観戦においては、1年以内のスタジアム観戦意欲、前シーズンからの観戦回数、観戦経験、Jリーグの認知を基に、9つの層に分類を行っている。調査は全国の男女20~69歳を対象にインターネットを通じて実施した。 スタジアム観戦層への転換は緩やかに進んでいる=獲得型の施策は奏功している。一方で、Jリーグへの関心度(高関心層の割合)は直近1年で16.9→16.7ポイントと横ばいとなっている。関心度は2021年までは毎年下降傾向にある中で、プロモーションや露出を強化した2022年に上昇し、そこからは維持できている状態といえる。ただ、年代別に見ると20代の関心が下がり、他の年代はほぼ変化なし、あるいは微増となっており、若年層の関心向上が課題となっている。
重点セグメント(認知未利用・離反の高関心層)のボリュームは直近1年で1ポイント(63.7万人規模)減少しており、関心度が引き上げられないと枯渇の懸念がある。ターゲット層のボリュームは2023年11月時点で、市場規模換算すると約676万人。
- MAU(月間アクティブユーザー)
- MAU(月間アクティブユーザー:JリーグIDの中でアクティブなユーザー数)についても、2023年7月に過去最多となる93.4万MAUを記録し、2023シーズン通年では前年比131%となった。IDを増やすだけでなく、しっかりとアクティブなIDを増やしていくことも重要であると考える。
大規模プロモーション施策設計
大規模プロモーション施策の無料招待キャンペーンの応募時には、JリーグID(JID)登録が必須となっている。そのため、本施策により各クラブが招待応募ユーザーを見込み顧客としてリード化することが可能で、顧客リストの蓄積につなげることができる構造となっている。さらに、リーグ主導でのテレビCM放映やメディア露出を併せて実施することで、「クラブが単体でホームタウン招待施策などを実施するよりも大きな効果を得られている」と各クラブから支持されている施策である。 2023年は計3回の大規模プロモーション施策(テレビCM+大規模招待+デジタル広告)、計8回の国立競技場施策(1万人招待)を実施。延べ応募者数約183万、新規JID獲得数約24万、離反復活JID数は約43万、来場貢献約30万人。チケット販促デジタル広告の実績も含めると、年間で新規来場貢献効果として約50万人程度、離反や既存を含む総来場貢献では約104万人程度を上積みできているといえる。Jリーグの顧客構造
Jリーグの顧客の構造は、シーズンシートホルダーを頂点とする各クラブファンのピラミッド、JIDのピラミッド、そして市場規模を表わす9segsのピラミッドという3つに分けて考えることができる。この3つのピラミッドを用いて顧客分析をしながら、2023年の大規模プロモーション施策では、主に新規ユーザー獲得および年1~2回来場のライト層に向けた施策として企画した。
中央ピラミッドの「F1」「F0」の層が「F2」に転換するよう、「JID登録はあるものの、来場いただけていない方の1回目の来場のきっかけにしたい」、「1回のみの来場にとどまっている方の2回目、3回目の来場促進」、「新型コロナウイルス禍を経て、離反をしてしまった方のカムバックの促進」などの狙いをもって、年間で開幕・春休み期、ゴールデンウイーク期、そして夏休み期の計3回、大規模プロモーション施策を実施した。
夏休み期大規模プロモーション実績
夏休み期の大規模プロモーション施策では、応募件数が60万を超えて、過去最大規模の反応が得られた。新規のみならず、既存層、離反層を含めた活性化に大きく貢献できたといえる。さらに、その後の来場分析により、こうした大規模プロモーション施策経由での新規来場者のうち、約3割の方が再来場されるということも分かった。
テレビCMのローカライズ展開
大規模プロモーション施策に合わせて実施しているテレビCMでは、各エリアの特性に合わせた展開を意識している。夏休み期に放映したテレビCMでは、地元のクラブや選手を起用するなど、エリアごとに映像をカスタマイズして計31パターンを制作した。その結果、「CMを見て観戦に行きたくなった」「実際に行った」という観戦の意向度、態度変容を表す指標は、過去最高の62%、CMの接触率も67%に及んだ。国立競技場での試合開催の狙いと入場者数実績
国立競技場での試合開催の狙いには大きく分けて2つの視点がある。
まずクラブ視点では、普段ホームスタジアムに足を運ぶことが難しい在京ファン・サポーターに対しての観戦機会の提供や、首都圏におけるファンベース拡大の契機となり得る。また、クラブスポンサーへのアクティベーションやビジネス機会拡大にも貢献できる。
そして、Jリーグ視点ではアクセスや利便性の高い23区内のスタジアムでの開催は、リーグ全体の集客につながるという点が挙げられる。花火やドローンなどの演出や豪華ゲストの出演などでメディア露出の拡大にも貢献できる。年に1~2回来場するライト層ファン育成の舞台装置として機能しているといえる。
国立競技場での試合は、5月12、14日のJリーグ30周年記念スペシャルマッチに始まり、計13試合を開催。7月の清水エスパルスvsジェフユナイテッド千葉ではJ2史上最多の入場者数を記録し、8月の名古屋グランパスvsアルビレックス新潟では2023シーズンのJ1最多を記録。また、プレシーズンマッチとして開催した明治安田Jリーグワールドチャレンジ2023 powered by docomoおよびAudi Football Summit powered by docomoは、2試合とも入場者数6万超えを達成した。全13試合の平均入場者数は約5.4万人だった。
国立競技場での試合開催は、首都圏のライト層開拓の“ショーケース”と考えており、同競技場で一度、試合を観戦した方がJリーグを好きになり、そして開催クラブのホームスタジアムに足を運ぶ一助となるよう、さまざまな仕掛けを行ってきた。2024シーズンもショーケースの役割を存分に生かし、さらなるファンの獲得につなげたい。