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Press Release プレスリリース

2007.7.28

2007 A3 U-14 フレンドリーフットボールツアー

大会ツアー前日。出発の準備をしていた少年がひょっこりと母の前へ、おもむろに顔を出して、ぼそっと訊ねました。『カレーってどう作るの?』



新潟は聖籠スポーツセンター、アルビレッジ。夏の空気を吸い込んだ天然芝が視界いっぱいに広がっています。「アイツすげぇー!!」ベガルタ・イエローのシャツをまとった未だ華奢な背中が大きく揺れます。「次、ループくるよ。カンコク、マジすごい!!」。ピッチ脇の芝に膝を並べて尻をついた居並ぶベガルタ・イエローの背中の間を、夏にしては涼しい風が優しく吹き抜ける、曇天となった大会2日目。美しい芝を舞台に、試合会場のそこここに、それぞれのクラブシャツを風にはらませた集団が動いています。

7月28日からの三日間、「2007 A3 U-14 フレンドリーフットボールツアー」が開催されました。アジアサッカー界のさらなる発展と競技力の向上を目的に設立された「A3チャンピオンズカップ」の付帯イベントとしても位置づけられている本大会「2007 Jリーグ U-14ポラリス」には、Jクラブのジュニアユースチームに加え、中国Cリーグから山東魯能、韓国Kリーグからは釜山アイパークユースクラブが招聘され、新潟県トレセンU-14を加えた10チームが参加しての2グループ構成によるリーグ戦形式で開催されました。

2008年度、来年からいよいよ、日本初Jリーグ史上初のU-14ジュニアユース世代によるリーグ戦が始まります。本大会は、その試行大会。

「この年代は、急激に身長は伸びる、同じ年代でも平気で20センチも30センチも差はある、体が急激に大きくなる時期なんです。さらに心も大人への変化を遂げる思春期。サッカープレーヤーとしても、人間形成としても、非常に重要な、いや最も重要な時期なんです(ベガルタ仙台ジュニアユース/蓮見監督)」「まさに、人間形成の土台作りの年代です(アルビレックス新潟ジュニアユース/堀沢監督)」

心身の成長期である子供たちを、どのように見守り導いていくのか。Jリーグでは目下、ジュニアユース世代の育成にあたり、そこに心を砕いて、日夜周到に準備が重ねられています。「この世代で重要なのは勝ち負けではないんです。大切なのは、個々の子供たちをどのように伸ばしてあげられるのか、いかに個の可能性を引き上げていってやれるのか、それに尽きます」(Jリーグアカデミー/山下氏)

なぜ今、リーグ戦なのか。そしてこの年代から国際経験を積ませる意義は。デリケートなこの世代をどのように『指導』していくのか。

「ついこの前も三泊四日の大会に出ました」仙台の選手が口にするように、実際には各Jクラブの対戦も、すでに日常的に組まれています。しかし、それがリーグ戦となると、それには一味も二味も違う意味があり、大いなる意義が生まれるようです。

「公式試合であるリーグ戦とトレーニングマッチとは、全く違います。定期的な公式戦が組まれれば、その『本番』の日に向けてのサイクルが生まれるからです。試合へ向けてのトレーニングができる、試合をして、休息し、そして課題を解決して、また次へとトライする。リズムとして味わうことが出来るようになるんですね」(アルビレックス新潟、Jリーグアカデミー育成センター長/岡田氏)

「試合をしてみて?韓国(釜山)のGKがスゴイ!あとは仙台の10番かな?ほんとすべてがウマイ!」とモンテディオ山形ジュニアユース村山のキャプテンは顔を輝かせる。「強いチームと対戦したら、個人の足りないところがよく分かってくるんです。試合後のミーティングでは、僕たちも相手みたいにもっと声を出そう、サポートし合おうと話しました。韓国と実際に対戦してみての印象は、本当にフィジカルが強いなって。正当なタックルを仕掛けてくるし。とにかくあたりが強い。でも、僕たちも最後までキレないで冷静にプレーできましたよ」

「ともかく韓国。すごいプライドを持ってやってくるからね。ボールをとられたら自分でスライディングして取り返しに来るし。リーグ戦?他のJクラブの強いチームと対戦できたら自分たちもうまくなれるし、うまい人のプレーを盗めるのがいい」(ザスパ草津赤堀ジュニアユース選手)「今日は後半バテちゃいました。駄目でした。リーグ戦は実現したらうれしい。自分たちがどのくらい強いのか、どこまで通用するのか、どこが違うのかが分かっていいです。やってやろうって気持ちになります」(水戸ホーリーホックジュニアユース選手)

それぞれに宝物を発見した選手たちを待ち受けていたのは、さらに過酷(?)で楽しい試練という名の、大人たちからのプレゼント。そう、キャンプ場に場所を移しての野外活動です。いざ、野外炊飯!日本・中国・韓国、さらにクラブチームの垣根を越えて、19もの小さなグループに分けられます。ゲーム形式で「食材カード」をくじのように順に引いていく。運が良ければ「豚肉」「メロン」と魅力的な食材が並び、そうでなければ「たまねぎ」の山、はたまた「豆腐」「豆腐」「豆腐」の文字が手元に並ぶことになります。その食材カードをにらみながら、これから何を作るかチーム内で話し合う。調味料は食塩からゴマ油まで様々な調味料が整えられた『調味料テーブル』まで、各チームで使用したい調味料をとりにいく。そう、メニューから自分たちで決めます。

そこで新たなルールが発表となり、交渉をすれば、グループ間で食材の交換が許可されることになりました。メニューを決めるにせよ、交渉するにせよ、言葉が通じなければ死活問題。生き抜くためのサバイバルゲーム。そこで面白い現象が生まれました。ツアーに帯同している通訳のもとへ、ひとり、またひとりと子供たちが訪れ始めます。言わばトレーディングカードとなる切り札の食材カードに、中国語・韓国語での訳を書き入れてもらいます。あるいは、「さつまいもは韓国語でなんて言うの?」と聞きに来ます。最初はぎこちなかった間延びしていた子供たちの輪が、やがてぐっと小さくなると、次に交渉の旅へと、散り散りに弾け散りました。

やがて、子供たち自身の手で生まれたひとつひとつの火種が、大きく炎の舌を伸ばし、闇を舐め、明るく照らし出し始めます。日が翳り始めた頃、山腹の夏の緑を背景に、19の釜戸から煙が高く立ち昇り始めました。食欲を刺激する匂いが満ち溢れます。カレー、豚丼、麻婆豆腐・・・。懸命にスイカを切っていた手をふと休め、脇で見ていた韓国選手の口へ、そのひとかけらを放り込む日本の子の姿があります。歓声があがる。「なに、おまえらズルイよ!めちゃウマイじゃん、このキムチ味!!」「げー!このカレー、辛過ぎるだろ!」「お前なに泣いてんだよ(笑)」

「自分の力でものをみて、状況を判断し、実行する能力を高めていくんです。それが一番大切なことです。そしてこの年代こそ、そこを伸ばしてあげたい。そしてそれは、将来必ず向き合うことになる『世界』というものと戦っていくためにも、最も必要となる能力なんです。サッカーをプロとして続けていくことになっても、例えそうでなくても、人として」(アルビレックス新潟、Jリーグアカデミー育成センター長/岡田氏)

「彼らには、コミュニケーションスポーツ・チームスポーツとしての本来のサッカーが持つ本当の楽しさを知って欲しいのです。互いの選手と触れ合って欲しい。これは、サッカーだけという意味ではありません。広く、『自分とは違うものに触れる』ということです。他チームでも海外チームでも、彼らを『敵』ではなく、『仲間』として感じられたら、もっと楽しくて、面白いはずです」(ベガルタ仙台ジュニアユース/蓮見監督)

「自我に目覚めて大人に足を踏み入れるこの年齢は、『失敗』をしないといけない。大人がしっかりと守って、理解してあげて、彼らにはその中で安心して失敗して欲しい。とにかくトライを重ねて、じっくりと心の中で感じ取る作業が最も大切。アクションへ移る局面のシーンこそ、しっかりと観察してあげます。『指導』というのは教えるということでありません。引き出し、導く、それがコーチングだと、わたしはそう思っています」(アルビレックス新潟、Jリーグアカデミー育成センター長/岡田氏)

「不思議なもんです。どうしてもウチの子たちをずっと目で追ってしまいます。どうやってコミュニケーションをとってるんだろう、誰がグループの中でリーダーシップをとってるんだろう、おとなしいのは誰かな?って。これまではサッカーをしている姿しかみたことがありませんでしたから。へえ、あんな面があるのか、あんな能力があるのかと、発見の連続です」(アルビレックス新潟ジュニアユース/堀沢監督)

距離を置き、キャンプ場の端の一角に陣取り、最後方から子供たちの様子を見つめる各クラブ監督コーチたちの表情は、優しいまなざしに満ちています。大人たちは、互いに話すことも忘れ、少年たちの生き生きとした姿に心を奪われていました。



食後、次のプログラムまでの合間、なごやかな空気に包まれる中で、ひときわ大きな人垣が生まれた。中から聞こえてくるのは、爆笑の声。誰もが、まるで子犬のように地面を転げまわって、文字通り腹を抱えて笑っています。その楽しげな様子に惹かれるように、その輪は大きくなるばかり。新潟のシャツが輪の中心にいます。それを取り囲むのは、コリアン・レッドのシャツの群集。そこへ、磁石のように引き寄せられた各クラブのシャツが入り乱れ、一体となって揺れています。ひとりの韓国選手が新潟選手へ内緒話のようにそっと耳打ちをすると、その新潟選手が耳で聞いた音を再現しようと忠実に真似る。そしてまた、耳打ち。何度も飽きもせずに延々と繰り返す。新潟の少年が口にしている言葉の意味は、韓国の少年たちにしか分からないはず。しかしその彼らの笑顔が、国籍を越えて、夏の少年たちを笑いの渦に引き込んでいます。

「あれはね、僕、いま韓国ですごく流行ってるお笑いのギャグを、あの彼に教えていたんです。それで彼が真似して言うんですけど、その発音が僕たちにはちょっとおかしくて(笑)!もう、すごく笑っちゃいました」(釜山アイパークユースクラブ選手)

まだあどけなさの残る、まるで女の子のようなかわいらしい韓国の少年が、無邪気な笑顔を浮かべる。本当にうれしそうです。

その夜のフィナーレを飾るキャンプファイヤー。同じ炎を囲み、階段状の半円形に膝を並べたU-14の少年たち。身体を使った集団ゲームを交えた楽しいひと時。19のグループがそれぞれに、思い思いの一言エールを考えて、みんなの前で発表していく。「ファイアー!」「日本大好き!」「明日も頑張るぞー!オー!」「ありがとう!謝謝!カムサハムニダ!」

閉会式でのコメントで、中国・韓国のキャプテンが共に口にしたのは、「日本の環境の素晴らしさ」。

「今の日本の子供たちは恵まれすぎているんです。それに気づいてもらいたい。『リスペクト』する気持ちを知り、覚え、それと共に育っていってほしい、そう願っています。それこそ芝の整備をする方から、もちろん家庭のお母さんお父さん、多くの人に支えられていることを知り、感謝する気持ちが芽生えてくれれば」(ベガルタ仙台ジュニアユース/蓮見監督)

「自分をとりまく環境へのまなざしを育てるということには、文字通りの環境も含まれます。今回の野外炊飯では、片づけまでしっかりとやってもらいました。洗い、ゴミを仕分け、分別してまとめます。それを当たり前のようにできるようになってほしい。現代社会を生きていく中で避けられない『環境問題』ということに目を向かせることも、重要なプログラムのひとつだったのです」(Jリーグアカデミー/山下氏)

新潟の自然の懐に抱かれた、長い一日が過ぎようとしています。勢いの衰え始めた静かな炎に赤く照らし出された200もの充実した顔。シャツの色は、夕闇に紛れ、すでに見分けがつかなくなりました。

宿舎へ戻りくつろいでいた韓国の通訳のもとへ、ひとりの少年があらわれ、こう訊ねたという。「『一緒にお風呂に入ろうよ』って、日本語でなんて言うの?」。その夜、宿舎の大浴場には、クラブシャツを脱ぎ捨て裸となった少年たちのたくさんのにぎやかな声があふれかえり、いつまでも響いていました。

日本・中国・韓国が手を結んだA3の繋がりは、各世代で展開され、今年は、U-14は日本開催、U-17は中国、U-12は韓国を舞台に、育成年代の国際交流が行われます。今後も、成長過程での黄金年代である14才の子どもたちのさらなる試合機会創出を目指していきます。

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