SEASON REVIEW 2023

JP

FOOTBALL

選手育成

開幕30周年を迎えたJリーグは、クラブ数が開幕当時の10から60に増加した。クラブのフットボール領域においてもJクラブがAFCチャンピオンズリーグ(ACL)を5度制覇し、日本代表やU-23日本代表がそれぞれFIFAワールドカップ、オリンピック出場の常連というパフォーマンスレベルに達している。また、日本人選手が世界最高レベルのUEFAチャンピオンズリーグに出場し、さらにそのノックアウトステージでの躍進をけん引できるレベルにまで到達した活躍も見逃せない成長である。
Jリーグが次の10年で、フットボールのパフォーマンスレベルだけでなく、経営規模も含めて拡大するには、試合という作品を提供するだけではなく、日本のフットボール自体の魅力が世界水準に達していると認知され、世界から選ばれるような舞台となることが必要である。今後、Jリーグはクラブのパフォーマンスを強化・拡大するために、シーズン移行をはじめとする大会のあり方や世界水準の競技レベルの試合を提供し、各種制度や施策の立案を行い、ビジョンに対する現在位置を適時・適確に把握しながら、絶え間ない成長のステップを刻んでいく。Jリーグの成長に欠かせない選手育成の取り組みを振り返る。

Jリーグ最優秀育成クラブ賞はFC東京

2023シーズンは、FC東京が3度目(*1)の最優秀育成クラブ賞を受賞した。この賞は、2023シーズンに向けてプロ契約した選手の育成経路とプロ契約先に応じた輩出実績に加え、Jクラブのアカデミーに3年以上所属したJクラブに所属する21歳以下(U-21)の選手の同シーズンの公式試合出場時間を評価基準として授与される。FC東京は、今シーズンより設けられた「出場実績」で5,562分を記録した。
この受賞は「FC東京のアカデミー出身の選手が2023シーズンに多くのプロ契約を締結したことに加え、FC東京(もしくは他のJクラブ)のアカデミーに3年以上所属した21歳以下の選手が同シーズンに最も長くFC東京の公式試合に出場した」ことを意味する。例えば、Jリーグ最優秀ゴール賞の最終ノミネートゴールに選出されたFC東京の俵積田晃太選手(2017~19年FC東京U-15むさし、2020~22年FC東京U-18)がいる。他のクラブでは、Jリーグ準優勝に貢献した横浜F・マリノスの山根陸選手(2010~15年横浜F・マリノスプライマリー、2016~18年横浜F・マリノスジュニアユース、2019~21年横浜F・マリノスユース)、あるいは2022シーズンに17歳でプロ契約を締結した川崎フロンターレの高井幸大選手(2015~16年川崎フロンターレU-12、2017~19年川崎フロンターレU-15、2020~22年川崎フロンターレU-18)などがアカデミーに3年以上所属し、2023シーズンにプロ選手として公式試合で活躍した典型である。
特徴のある実績として、例えば大分トリニータは、輩出実績で2人分(佐藤丈晟選手と保田堅心選手)にとどまるが、出場実績でアカデミー出身のU-21選手7人分が対象となり選考過程の上位にノミネートされた。今回ノミネート外ではあったがヴィッセル神戸は自クラブのアカデミーでの所属歴がある5人の選手と2023シーズンのプロ契約をしたことで、選考過程で輩出実績について高い実績を収めている。
また、出場実績では60クラブ中56クラブ(93.3%)が対象となったが、輩出実績では27クラブ(45.0%)にとどまった。
このことは、出場実績に着目すれば、2023シーズンの公式試合において9割以上のクラブでJクラブのアカデミー出身選手が出場したことを示している。もちろんその活躍度合いにクラブ差はあるが、9割以上のクラブで出場できたという点は特筆に値する。 他方、2023シーズンの輩出実績では、全クラブの半数に満たなかったことから、輩出実績は今後の課題の一つと捉えることができるだろう。
プロ選手として公式試合への出場を果たすには、当然そのための準備を整える必要があるが、それはいつ、どのように始まるのだろうか。次に、その準備に欠かせない要素の一つである2023シーズンにJリーグが主催した育成年代のゲームプログラムを振り返る。

  • *1 FC東京は、2010、2017年に同賞を受賞している。
表彰概要
2023シーズンにむけてJクラブのアカデミーからトップチームへの選手輩出数(輩出実績)、アカデミー(U-15またはU-18)に3年以上在籍した21歳以下の対象選手の出場時間(出場実績)を評価基準としてノミネートクラブを選出し、選考委員会にて決定する。
2023Jリーグ最優秀育成クラブ賞ノミネートクラブの対象選手
受賞クラブとノミネートクラブ名 FC東京
(受賞)
サガン鳥栖 大分トリニータ
2023シーズンに向けアカデミーからプロ契約した選手
氏名(選考時点の所属)
土肥 幹太
俵積田 晃太
熊田 直紀
佐藤 龍之介
東 廉太(相模原)
坂井 駿也
大里 皇馬
竹内 諒太郎
楢原 慶輝
保田 堅心(大分)※
竹内 諒太郎(クリアソン新宿)
佐藤 丈晟
保田 堅心※
2023シーズンに出場実績があったU-21選手※※
氏名(他クラブアカデミーの経歴がある場合)
野澤 大志ブランドン(FC琉球U-15、FC東京U-18)
土肥 幹太
小林 将天
安斎 颯馬
俵積田 晃太
熊田 直紀
佐藤 龍之介
坂井 駿也
大里 皇馬
竹内 諒太郎
楢原 慶輝
西川 潤(横浜FMジュニアユース)
坂本 稀吏也(C大阪西U-15)
弓場 将輝
屋敷 優成
佐藤 丈晟
保田 堅心
木許 太賀
松岡 颯人
小野 俊輔
  • ※保田 堅心選手(大分)は鳥栖U-15と大分U-18でそれぞれ3年以上在籍したため両クラブで対象
  • ※※U-15とU-18で3年以上在籍したことのあるU-21選手

2023Jユースリーグ
ストレッチの機会(*2)としての活用が浸透。アカデミー選手の試合出場の意義の進展

2023シーズンにJリーグが主催した育成年代のゲームプログラムには、NEXT GENERATION MATCH、Jユースリーグ、そしてJリーグU-14がある。
最もプロ選手に近い年代の選手を対象としたゲームプログラムがJユースリーグである。1994年創設のこの大会は選手や指導者により良い試合の機会を提供すべく形を変えながら、その歴史を重ねてきたが(*3)、2021シーズンから17歳以下(U-17)の選手が参加の中心となっている。

2023Jユースリーグにおける年代別の出場状況
これまでU-17選手の大会といえば、17歳もしくは17歳になる年代の選手が出場する場合が多かったが、2023シーズンはさらにその下の年代である16歳以下の選手の出場時間が全体の56.8%(*4)と過半数を超えた。2022シーズンに44.6%(*5)であったことから、この変化は実にシンボリックな出来事である。それはどういうことだろうか。
Jクラブの醍醐味は種別を超えた大会出場の機会提供
2023シーズンの16歳以下選手の出場時間を詳細に見ると、14~15歳の選手の出場時間が8.4%(延べ人数で303人、10.1%)を占めている。つまり、この大会は17歳以下の大会でありながら、15歳以下の選手が1試合あたり1.21人(試合出場メンバー11人中10.1%と試算)、7.56分(1試合90分中8.4%と試算)出場したといえる(*6)。 14歳もしくは15歳の選手が17歳を中心とするチームで試合に出場することは、中学2年生が高校2年生と試合をするということ(*7)。2023シーズンの本大会は、まさに種別を超えた14~18歳の年代の選手が出場し、15歳以下の選手のうち選ばれたエリート選手が1~2人、2歳以上離れた選手たちとの試合をプロ選手として必要な資質能力を獲得する場として活用し始めたといえる。 もちろん、約半数(48.4%)の出場時間を占める16歳の選手にとっても、1~2歳上の年代の選手たちと共に試合を行うことは、十分なストレッチの機会といえよう。

同様の視点で17歳のエリート選手は、プレミア、プリンスリーグなど、18歳を中心とした選手が出場する試合に成長の場を求め、佐藤龍之介選手(FC東京)、高井幸大選手(川崎フロンターレ)、北野颯太選手(セレッソ大阪)あるいは道脇豊選手(*8)(ロアッソ熊本)のように高校2年生時にプロ契約を締結する選手も輩出され始めている。このような種別の垣根を超えた試合環境の提供は、継続的にJリーグが担うべき役割だといえる。
  • *2 Jリーグでは、同年代の試合で安定して高いパフォーマンスを示している選手に対し、その選手の個別育成プラン(IDP)を活用しながら、上の年代への飛び級による限界へのチャレンジと、本来の年代に戻って見つかった課題を乗り越え、さらなる成長の後押しをする計画的な取り組みを「ストレッチと統合」と呼んでいる。
  • *3 2020シーズンは新型コロナウイルスの影響で中止となった。
  • *4 2023シーズンの出場時間は17歳の選手が37.8%、18歳(オーバーエイジ枠で3人まで出場可)の選手が5.4%であった。
  • *5 2022シーズンの出場時間は17歳の選手が46.2%、18歳(オーバーエイジ枠で3人まで出場可)の選手が9.3%であった。
  • *6 2022シーズンの15歳以下の出場時間は、1試合あたりわずか2.7分(3%)であったことから、2023シーズンの出場時間が1シーズンで2.8倍増加した。
  • *7 日本サッカー界には、学校教育の一環としての部活動がサッカーの発展をけん引してきた歴史があり、中学生年代を第3種、高校生年代を第2種として、大会参加資格や選手登録制度に連動していることから、種別を超えた試合出場は制度上の難しさが存在している。
  • *8 高井幸大選手は2022年に17歳で川崎フロンターレとプロ契約、北野颯太選手は2022年に17歳でセレッソ大阪とプロ契約、道脇豊選手は2023年に17歳でロアッソ熊本とプロ契約、佐藤龍之介選手は2023年に16歳でFC東京とプロ契約した。
2023 Jユースリーグ 年代別の出場状況

昨年よりも、U-15、U-16の出場時間が増加、ストレッチの機会としての活用が浸透してきている。
【3種登録(U-15、U-14チーム所属)選手のストレッチ】
◾️ 出場時間:15歳以下の選手(U-15、U-14)の出場時間は14,412分で全体の8.4%(2022実績:5,501分、全体の3.0%)
◾️ 出場延べ人数:15歳以下の選手(U-15、U-14)は303人で全体の10.1%(2022実績:126人、全体の4.4%)

  • ※2023/12/3終了時、全体の試合進捗率は100/123試合(81%)

Jリーグ人材育成コース継続学習(Continuing Professional Development (CPD))(*9)イベント2023

Jリーグでは、アカデミーの指導者のCPD(Continuing Professional Development)担保を目的として、アカデミーのマネジメント人材やコーチングにおけるリーダーの育成、Jクラブで活動するコーチ仲間を拡大する機会の提供、あるいはアカデミーのコーチングスタッフが育成年代の選手育成における将来のリーダーに必要なナレッジの獲得・共有、適切なツールやコンセプトを身に付けるための機会提供といった4つのイベントを、2023シーズンに提供した。

Jリーグ人材養成コース継続学習(CPD)イベントPart1
テーマ プレーイングフィロソフィー&個別育成
目的 クラブのフットボールフィロソフィー(CFP)の体現に必要なプレーイングフィロソフィー、コーチングフィロソフィー、選手用IDP(個別育成プラン)をオンザピッチ、オフザピッチで理解する
実施期間 2023年5月15~16日
実施場所 J-GREEN堺
参加者 Jクラブのアカデミーより13人、日本サッカー協会(JFA)より3人(うち、1人はオブザーブ)
概要説明 参加した上記の16人は、2日間で4つの講義テーマとそれに関する2回のグループディスカッション、海外ゲストスピーカー2人による1回のセッション、1回のオンザピッチセッションとそれに必要なグループディスカッションを実施した。世界水準の選手育成実績を誇るプロフットボールクラブが備えるクラブのフットボールフィロソフィーやクラブのビジョンの具体例を知り、アカデミーがどのように選手のパスウェイの構築に貢献できるのかをゲストに聞いた。また、クラブのビジョン達成に貢献できる選手を輩出するために必要な「選手に求められる要素」を、どのようにピッチ上のトレーニングに落とし込むかの具体的な手順や振り返り方法などを学んだ。
Jリーグ人材養成コース継続学習(CPD)イベントPart1
  • *9 CPD(Continuing Professional Development、継続学習)とは、指導者個人が自らの意志で自らの専門性やスキルの維持向上を図るために継続的な教育プログラムや講習会などを受講することをいう
Jリーグ人材養成コース継続学習(Continuing Professional Development (CPD))イベントPart2
テーマ 個別育成&スタッフの育成(IDP(Individual Development Plan)/CPD)
目的 CPD(Continuing Professional Development)プログラムのベストプラクティスに学ぶ~アビスパ福岡アカデミーのプレーイングフィロソフィー、コーチングフィロソフィー、選手用IDP(個別育成プラン)およびスタッフ用IDP(個別育成プラン)
実施期間 2023年7月10~11日
実施場所 アビスパ福岡クラブハウス
参加者 Jクラブのアカデミーより21人、JFAより1人
概要説明 参加した22人は、2日間で2つの講義テーマを学んだ後、その実践におけるベストプラクティスとしてアビスパ福岡のケースを同クラブのアカデミーテクニカルアドバイザーであり強化部の藤崎義孝氏、アカデミーダイレクターの井上孝浩氏およびアカデミーヘッドオブコーチングの壱岐友輔氏を講師に招き学習した。実際にIDP(個別育成プラン)コーチとして実践する2日目のオンザピッチセッションに向け、1日目にグループディスカッションによりトレーニングセッションの準備を行った。2日目は詳細に福岡アカデミーの選手育成システムを学んだ後、参加者は福岡アカデミーのIDP(個別育成プラン)コーチとして、福岡U-18の選手に対するトレーニングセッションを実践。福岡県サッカー協会をはじめ地域のコーチもオブザーブ参加した。
Jリーグ人材養成コース継続学習(CPD)イベントPart2
Jリーグ人材養成コース継続学習(Continuing Professional Development (CPD))イベントPart3
テーマ コーチングカリキュラム&個別育成
目的 クラブのフットボールフィロソフィー(CFP)の体現に必要な選手に求められる要素、コーチングカリキュラム、選手用IDP(個別育成プラン)、ストレッチと統合をオンザピッチ、オフザピッチで理解する
実施期間 2023年9月25~26日
実施場所 JFA夢フィールド
参加者 Jクラブのアカデミーより16人
概要説明 参加した16人は、2日間で4つの講義テーマの受講とそれに関するグループディスカッション、海外ゲストスピーカーによる1回のセッション、1回のオンザピッチセッションとそれに必要なグループディスカッションを実施した。世界水準の選手育成実績を誇るプロフットボールクラブが備えるフットボールフィロソフィーと選手に求められる要素が具体的にどのように結びつくのかを、コーチングカリキュラムの構築やピッチ上でのIDPの実践を通して学んだ。さらに、アカデミーにおける選手育成にIDP(個別育成プラン)コーチがどのように関わるのかをゲストに学び、全体トレーニングにいかにIDP(個別育成プラン)の要素を組み込むかの具体的なセッションプランニングの方法などを体験した。
Jリーグ人材養成コース継続学習(CPD)イベントPart3
Jリーグ人材養成コース継続学習(Continuing Professional Development (CPD))イベントPart4
テーマ FIFA U-17ワールドカップインドネシア2023視察
目的 当該大会の試合視察を通じ、世界のトップレベルで採用されている最新の戦術やプレースタイルから学び、指導者としてのスキルや戦術理解を向上させ、選手の競技レベル向上につながるアイデアを得ること。さらに各国の代表チームやJFAをはじめとする各国のサッカー協会関係者と交流することで、国際的なフットボールコミュニティーとのネットワークを構築・強化し、出場各国の有望なエリート選手の分析により、自クラブの新たなエリート選手の基準を設定し競争力を高めること
実施期間 2023年11月13~19日
実施場所 インドネシア(バンドン、ジャカルタ)
参加者 Jクラブアカデミーより8人
概要説明 参加した8人のJクラブアカデミースタッフは、FIFA U17ワールドカップの全52試合(24カ国参加)のうち、日本戦を含む計8試合をインドネシアの2会場で視察した。世界のエリート選手のパフォーマンスを体感し、詳細なマッチリポートの作成により、チームとして表現される戦術やプレースタイルだけでなく、個々のエリート選手の技術面、戦術面、フィジカル面、心理社会面における特徴を特定し、自クラブアカデミーにおける理想の選手像や選手に求められる要素などをアップデートする機会を得た。さらにスカウティングを専門とする海外のゲストスピーカーを招へいした講義を含む10時間の座学やディスカッションを行った。また、U-17日本代表のトレーニング視察を2度行い、分析対象となった12カ国128人の選手から16人の印象的なエリート選手を選出・考察した。
Jリーグ人材養成コース継続学習(CPD)イベントPart4

Jリーグ固有の取り組み~Jリーグにおける選手教育~

2023シーズンのJリーグの新人選手に対する研修(以下、新人研修)は228人の選手と60クラブのスタッフが参加し、「Jリーグの選手としての存在意義と価値を高めること」を目的に実施された。オンラインプラットフォームでの年間を通じた講座の受講やオンラインでの選手交流会、各クラブの新人研修担当者の2回の情報共有会、FC東京、水戸ホーリーホック、FC岐阜によるベストプラクティスの共有を通じて、新人選手は自身の役割と選手像について深く考えた。新人研修担当者は各クラブのフットボールフィロソフィーに基づいた「ソーシャルスキルアクションプラン」による独自の研修を実施し、新人選手の成長をサポートした。

©KAGOSHIMA UNITED FC

新人研修と選手教育を支える「選手教育プラットフォーム」
野々村芳和Jリーグチェアマンの「Jリーグからのメッセージ」や中村俊輔さんなどの選手OB講話をはじめとした毎年リニューアルする講座や継続講座を含め、2023年には全36種類の講座(新人選手必須講座 20、任意講座 16種類)がJリーグから提供され、顔認識機能で受講管理が行われている。この選手教育プラットフォームは、アンチドーピングなどのクラブライセンス適用講座の提供にも使われている。
Jリーグヘッドオブエデュケーション養成コース(JHoE(J.LEAGUE Head of Education course))
Jクラブにおいて、教育部門のパフォーマンスプランを管理し、トップチームからアカデミー選手までのエリート選手教育を担うHoEの養成は、2023シーズンに第3期を迎えた。HoEの役割と責任、その役割の遂行に必要な資質能力、その資質能力をどのように獲得するかなど年間13回の講義への参加、選手教育やスタッフ教育の年間カレンダー作成などの課題提出に加え、Jリーグが主催する選手教育関連のイベントにおけるファシリテーションの実践を経て、今期は新たに10人の修了者が誕生した。第1期から3期(2021~23年)までに合計32人のHoEを養成した。
Jリーグ版よのなか科とプレ・プロ研修の推進

©N.G.E.


Jリーグでは、U-14年代の選手向けに「Jリーグ版よのなか科」を各Jクラブに提供し、2010年以来50以上のクラブで約10,000人の選手に実施してきた。近年は、約50クラブが参加している。この授業では、Jリーグや各Jクラブの経営・運営について学び、各クラブで働くスタッフやトップチーム選手の役割を理解する。そして、自身のプロサッカー選手に向けたパスウェイの構築に向け、オーナーシップの姿勢や情報編集力を養い、豊かな職業観を持つことを目的としている。授業にはゲストや保護者、スタッフも参加し、グループディスカッションや議論を通じて将来のキャリアイメージプランを作成している。
また、U-16年代の選手向けには「プレ・プロフェッショナル研修(プレ・プロ研修)」が2019年に始まり、選手がクラブのフットボールフィロソフィーを理解し、実際の活動に反映させることの重要性を認識して現状と目標のギャップを埋め、プロサッカー選手を目指す覚悟を固めることを目的としている。推奨年代であるU-16の選手は自分の考えを言語化し、毎回の振り返りで目標や到達点を記録することで、明確なプランを立案し、高い目標を達成するための進捗確認の能力を獲得している。
2023シーズンもファシリテーターに向けた研修会が実施され、令和の日本型学校教育について外部講師を招いて学習。大宮アルディージャ、ベガルタ仙台、FC今治、アルビレックス新潟、横浜FC、そして清水エスパルスのベストプラクティスを学び、各自の実践に向けた動機づけを行った。12月には振り返り研修を実施し、横浜FC、モンテディオ山形、今治、福岡のベストプラクティスを学び、各クラブが2024シーズンに向けた振り返りの機会とした。

Jリーグアカデミークオリティースタンダード(JAQS*10)の運用

選手育成には多くの部門や人材が関与している。その集合体としての組織がどのような基準で成り立っているかを定めたものがJAQSである。
2023シーズンはJAQSの運用を各クラブが任意で行う事業とした。1つ星、2つ星基準を目指すクラブのうち、41クラブがASMのサポートを中心にリポートで推奨されたアクションプランの活動を継続し、新たに5クラブが1つ星、2クラブが2つ星の基準を満たした。その結果、JAQSの第1サイクル(2021~23年)では9クラブが1つ星基準を満たし、2クラブが2つ星を満たした。なお、3つ星、4つ星基準を目指すクラブのうち、希望した12クラブにフィードバックミーティングを実施し、フィードバックリポートの発行などにより、今後の活動の方向性を確認しながらサポートを継続した。

  • *10 JAQSとは、J.LEAGUE Academy Quality Standardの略称。JAQSは2022年度まで、それぞれ4つの段階(1つ星〜4つ星)が設定され、自クラブのプロサッカー選手を育てられる仕組みを持つ1つ星から、選手を育てることにおいて世界をリードできるほどの仕組みを持つ4つ星まで、各アカデミーはそれぞれのクラブの考えや計画に合わせ、どの星を目指すかを選んでJリーグに登録する制度であった。2023年度からは任意の事業へ変更となり、Jリーグのアカデミーサポートマネージャー(ASM)を中心に、各アカデミーのJAQSを用いた取り組みをサポートしている。

Project DNAの振り返り

2019シーズンにその取り組みを開始したProject DNAは、2022シーズンで一区切りがついた。2023シーズンはその振り返りと2024シーズンに向けた新たな取り組みに向けた準備期間となった。このプロジェクトは、日本独自の育成システムを構築して、優秀な選手やスタッフが育つワールドクラスのアカデミーを設けることを目標としてきた。選手を育成するための人材を養成し、サッカー界で活躍する仲間を増やしながら、クラブ内のマネジメント層(シニアリーダー)への働き掛けをクラブ内で促進、個別育成を推進する活動文化を構築することで、エリートな世界水準のアカデミー環境を構築しようとした。世界のベストプラクティスに学びながら5つの人材養成コースを運営し、世界水準のアカデミーに必要な基準を確立。選手のパスウェイ構築に貢献するゲーム環境と選手教育を推進しながら、安全安心に活動できるサッカー環境をセーフガーディングの推進によって構築しようとする取り組みを進めた。その結果、クラブとトップチーム、アカデミーによる黄金の一貫性を担保するために必要なクラブのフットボールフィロソフィーが、多くのクラブで浸透した。その象徴としての技術委員会(名称は各クラブ固有)も各クラブで機能し始めている。2019シーズンからの取り組みの具体的な成果として、アカデミー出身の選手たちが今後のJリーグの試合という作品のクオリティーに貢献し始めることを期待したい。

まとめ

Jリーグが次の10年でまず目指すべき「アジアで勝ち、世界と戦うJリーグ」、「欧州リーグ選手とJリーグ選手による日本代表」、「全Jクラブの経営規模を1.5~2倍へ」という状態に到達するために、アカデミー出身選手ができるだけ若いうちに自クラブ(もしくは他のJクラブ)のプロ選手として公式試合で活躍するという、「輩出」と「U-21選手の出場」の視点は欠くことのできない要素である。
ここでまとめに代えて、FIFA U-17ワールドカップインドネシア2023をJFAのテクニカルスタディーグループの一員として視察したJリーグアカデミーサポートマネージャー(ASM)の小池直文が、帰国後に残したコメントを添えたい。
「大会に出場した各国に目を向けると欧州チームの選手のほとんどがトップチームのセカンドチームやU-19でプレーしていたのが印象的だった。1部リーグだけではなくUEFAチャンピオンズリーグでプレー経験のある選手もいた。さらにスペインに至っては、欧州予選で得点王であったラミンヤマル選手(FCバルセロナ所属)は既にフル代表に選出されており、今大会にエントリーされていなかった。しかも、スペインはスターティングメンバーの約半分が1歳下の2007年生まれで構成され、そのほとんどが3部リーグでプレーしている。他の欧州、南米、北米(アメリカ)も同様で、セカンドチームに所属して3部リーグを経験し、トップチームでの試合経験がある選手もいた。日本にもJリーグYBCルヴァンカップや天皇杯JFA全日本サッカー選手権大会、J2でデビューしている選手が3人(道脇/前述、佐藤 龍之介/FC東京U-18、矢田 龍之介/清水エスパルスユースの各選手。所属は大会当時)いるが、スペインなどと比べると物足りなさは歴然としている。ポストユース(U-18以降の年代)の試合環境を、単に90分の試合ができるというだけでなく、世界水準の質を求める試合環境として、JリーグやJFAが安定して提供することが、引き続きの課題だと感じた」
2024シーズンのJリーグの選手育成も、容赦なくトップクラスのレベルに挑みたい。