SEASON REVIEW 2023

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チェアマンインタビュー

30周年を迎えた2023シーズンを振り返ってください。30周年記念イベントなどもありましたが、特別な思い、歴史を振り返って考えるようなことなどあれば。

30周年だからといって特別な感じはないですね。特にフットボールについては、30年目と31年目で絶対的に違うということはありませんので。ピッチ上は例年通り、現場の選手やスタッフたちは本当によく頑張ってくれているという気持ちは変わらないです。ただ、どれだけファンを増やすか、もっと仲間を増やしていくかということに関しては、この30周年に行ったいくつかのイベントなどを通して、うまくいろいろな人に伝えることはできたかなと思います。

2023年はシーズン制のテーマをきっかけに、今までの30年がどうだったか、またこれから先の30年をどうしていかなければならないかということを、1年かけてサッカー界全体で議論してきました。それぞれのポジションでさまざまな考え方や見方があった中で、世界との比較も含め、一つの大きな塊として次の30年に向けて考えることができるようになったのは、すごく良い1年だったと思っています。

チェアマンに就任して2年目となり、改革のアクセルを踏むシーズンでしたか。

チェアマンに就任した2022年からずっとそのような感覚ですね。2022年もいろいろなことを前向きに変えていこうとやってきましたが、今年一番考えさせられたのは、やはり世界と本気で競争するつもりがあるのかということ。もちろん今までも考えていたつもりですが、今まで以上にそれを強く思うようになりました。海外のクラブやサッカー業界でビジネスをしている人たちと会って話したこともきっかけの一つですが、代表選手や若い選手たちがどういうマインドでサッカーをしているか、フロントサイドにいるわれわれが同じような気持ちでいられているか、という問いに対して、自分はもう少し本気で世界を意識しなければいけないなと思えたのは、遅いかもしれないけれど良かったと思います。Jリーグが国内で、そして世界の中でどうあるべきか、ということの意識を強く持って、自ら考えれば方向性は決まってくると思います。

日本代表は躍進の1年で、世界での見られ方も変わりました。そうした中でJリーグも今までのようではいられないということですね。

そうですね。今のままでも、良い選手たちがJリーグから出てきているのは事実ですが、もっと良くなるという感覚はありますね。サッカーのレベルをどうやって上げるか、いくつか打ち手がある中で、やはり夏のパフォーマンスの低さは、フットボールのことだけを考えたら絶対に変えなければいけないことだと思いますから。

J1はヴィッセル神戸が初優勝しました。サッカーの内容を含めてどのような印象でしたか。

神戸は、クラブとして厳しかった時期もあったと思いますので、本当に良かったなと思える瞬間でした。今シーズンもすごく大きな決断が必要な場面もたくさんあったと思いますが、それを誰か一人の力でというよりは、みんなの力で乗り切ったような感じがします。特に、2023年はJ1で突出したチームがなかった中で結果を出したのは、経験豊富な選手たちの力も大きかったと思いますね。どんなサッカーをしなければいけないか、勝つために何が必要かを、選手だけではなくクラブ全体で考え、信念を持ってあのサッカーにたどり着いたような感じがするので、そこはすごいなと思います。

アビスパ福岡のJリーグYBCルヴァンカップ初優勝もインパクトは大きかったですね。

確かに福岡の優勝もインパクトは強かったです。長谷部茂利監督の下でJ1に昇格し、着実に力をつけてタイトルまで取ったというのはすごいことだと思います。

J2はFC町田ゼルビア、J3は愛媛FCがそれぞれ初優勝を果たしました。

町田は、もちろんピッチ上で黒田剛監督以下、すごく良い仕事をしたと思います。やはりクラブのサイズの成長も上を目指すためには必要だということを示してくれました。選手強化も含め、グループ全体で昇格を勝ち取ったという印象です。プロサッカークラブということに関していうと、最も合理的なつくり方だと思います。
J3は本当に戦力がきっ抗していた中で、愛媛はここ数シーズンの積み上げが優勝という結果につながったと思います。

2023シーズンの入場者数についてお聞きします。Jリーグ公式試合の総入場者数が過去最高だった2019年比で99.3%でした。国立競技場の積極活用やプロモーション効果もあったのでしょうか。

2020年から2022年の3年間はコロナ禍の影響を受け、また2023年も5月8日の5類移行まで制限があった中で、公式試合の総入場者数がほぼ2019年の入場者数まで戻ったことは、少しホッとしました。2024年は2019年を超える過去最高を目指したいと思っています。国立競技場の活用は、都心の人たちにサッカーを楽しんでもらう環境をどう提供するかということ。また、各地域以外の人を首都圏でファンとして獲得したいという各クラブの思惑にとってもメリットがあると思っています。2023年に国立競技場で開催した試合の最多入場者はJ1で57,058人、J2で47,628人を記録しました。さらに、Audi Football Summit powered by docomoのFCバイエルン・ミュンヘンvsマンチェスター・シティの試合は65,049人に来場いただきました。

国立競技場という特別なスタジアムが来場者数にも影響しているのでしょうか。

それは絶対に影響していると思います。やはりスタジアムはすごく大事です。スタジアムそのものの価値や魅力があってこそ、フットボールを十分に楽しむことができますし、この先は良いスタジアムがあることがより求められるようになるでしょう。国立競技場は特にアクセスが良いので、足を運んでいただきやすいのではないでしょうか。

2024シーズンも国立競技場を積極的に活用しますか。新規ファン層の開拓にも効果的だと思います。

はい、活用する予定です。金曜開催の試合では、土日のお客様と違う層の都心で働いている人たちが会社帰りに来場するというデータもあります。首都圏でサッカーファンをつくること、新しい人たちに仲間になってもらうことが、Jクラブ・Jリーグのさらなる成長に必要だと考えますので、いくつかの新しいトライは続けていこうと思います。

熱心なサポーター以外のライト層、応援チームはないがサッカーを見る人が、まだまだたくさんいます。もちろんコア層を増やしていくことが、クラブにとって最も大事な部分だと私は思っていますが、それとは別に新しい人たちを連れてくることも考えなければいけません。日本を引っ張っていってくれるクラブが現れるとしたら、それは地域を超えて多くの人が見たいと思うようなクラブ。そういうクラブになってもらいたいということを考えても、やはり首都圏のプロモーションは重要ですし、そう考えるクラブをJリーグとしてもサポートしなくてはいけないと思います。

新規開拓という意味では明治安田Jリーグワールドチャレンジも効果が大きかったと思いますが、手応えはいかがでしたか。

ご来場いただいた方たちは、普段Jリーグに来ている人たちとは違う層も多かったです。2022-23シーズンのUEFAチャンピオンズリーグを制したマンチェスター・シティ、そしてFCバイエルン・ミュンヘンを招へいできたこともあり、Jリーグ、日本のサッカーをより広く一般の人たちに伝えるという点で、意義のあるゲームを開催することができました。また、お客様だけでなく関わっていただいたパートナーの皆様へも、一緒に仕事をすることでサッカーの魅力や威力を伝えることができたと思います。サッカーのマーケットを国内でより広げるということはすごく重要なことだと思いますので、良い取り組みであったと思います。

関わったJリーグ職員の経験としても大きかったですね。

そうだと思います。サッカービジネスをやっている世界各国の人と接する機会はそれほど多くないので、職員にとっても大きな経験になったでしょう。国内で6万人規模のイベントはなかなかないので、それを経験するかしないかではだいぶ違うと思いますし、広くいろいろなことを考えるきっかけにもなったのではないでしょうか。大変だったところもあったでしょうが、関わった人たち全てにとって良かったと思います。

次に、今後の30年に向けてのJリーグの2つの成長戦略について伺います。2024年はJ1、J2のクラブ数も変わります。

各カテゴリーが20クラブとなり、分かりやすくなったでしょうか(笑)。この30年は国内でどう勝つか、また国内のサッカーをどう安定させるかが開幕当初からの至上命題で、最も重要視されてきたことだったと思います。その中でJリーグは十分に成長してきましたが、一方で30年前と比べて世界のリーグとの差は開いてきているのも事実です。従って、意識を変え、国内のコンペティションを戦うことだけでなく、世界もしっかりと意識しながら成長していくのが、次の30年だと思います。

では、どのクラブが世界と戦っていけるかの勝負は、これから始まると私は思っています。J1の18クラブを20クラブにすることで、J2からも上がりやすくなり、どのクラブにもチャンスがあります。60クラブが輝き、少しずつ成長し、20のJ1クラブから日本サッカーをけん引していくクラブが出てきたときに、J1の価値は今まで以上に上がるはずです。そのような30年になればいいなと思います。

世界で戦える可能性があるクラブのゼネラルマネージャー(GM)をやりたい人がどんどん出てくるのが望ましいですね。

チームをしっかり勝たせ、移籍を通じてクラブに利益ももたらすなど、フットボールのビジネスマンみたいな人がたくさん出てくることを期待したいです。選手は海外、欧州の主要リーグに行くようになり、きっともうすぐ日本の指導者からも海外で活躍する人が出てくるでしょう。その先には日本のフットボールビジネスマンが海外で活躍するということも十分に期待できます。そうなると、いよいよ本当に日本のフットボールが良くなっているという感じになるのではないでしょうか。やらなければいけないことはたくさんありますが、一番大事なのは本気でそこを目指すマインドを持つことだと思うので、そこだけは変わっていかなければいけないと思いますね。

2023年はクラブサポート本部による取り組みが始まりました。

新設されたクラブサポート本部は、担当が各地域の露出拡大などの支援を行っていますが、クラブに直接関わり、クラブや地域のリアルを知ることができるというのは、Jリーグ職員にとってもメリットがあったと思います。

2022年10月には各地域におけるサッカーの普及促進を目的として、各地のローカル局で開始した「KICK OFF!」も2023年は全国30局に拡大し、45都道府県をカバーしました。これからもっとサッカーに興味を持っていただきたい方々に向けて、各地域における少年少女年代のサッカーからクラブの情報まで幅広くお届けしています。これをフックとして、各地域での報道番組なども含めた露出量が十数倍、また広告換算価値も約十倍になったという数字のエビデンスもありますので、一定以上の成果は出ていると思います。実際、全国的に一般の人がサッカーに触れる時間は、以前と比較して圧倒的に増えているといえます。地域のメディアの方々や応援してくれている方々とのつながりが深まり、仲間が増えているという感覚は絶対にあると思います。

今後につながるという意味で、Jリーグとしても投資だということでしょうか。

人の投資もお金の投資も、限られた財源の中から投資する上で重要なのは、どれだけリターンを得られるかと、それをまたどう再投資するか。その循環ができていれば、もっと良くなっていくはずで、今のところできているところが多いと思います。加えて、成長途中のクラブはリソースも含めて本当に大変なので、Jリーグのスタッフが1人、2人行くだけでもだいぶサポートになっているのではないかと思います。

ルヴァンカップでJ3クラブがJ1やJ2のクラブと対戦できるのも、新しい機会の一つですね。

そうですね。そこで普段スタジアムに来場しない方たちも来てくれる可能性も生まれます。クラブとしてはいろいろな経験ができるでしょうし、売り上げなどビジネス的にもメリットは出てくるでしょう。そのチャンスはうまく生かしてほしいですね。何か変化が起こりそうだなと思ったときに、どういう心持ちでどうチャレンジするかは結構大事。面倒くさいと思うのか、面白いことが起こるかもしれないと思うのか、そういう場をJリーグとして提供するので、あとはクラブがうまく生かしてくれることを望みます。

2026年からのシーズン移行が理事会によって決議されました。1年近くかけてきて、話し合いによって得られたもの、またこれから解決すべき問題はどのようなものでしょうか。

冒頭にも言いましたが、本当に良い時間でした。たとえこれを2カ月、3カ月で決めようとしたとしても、もしかしたら決まったのかもしれない。でも、そうではなく、この1年いろいろな人たちを巻き込んで話をすることが、この先の日本のサッカーにとって重要な時間になると思いましたので、丁寧に進めてきました。議論に参加した方全員とはいいませんが、意識は絶対に変わったと思います。この国においてサッカーをどうつくっていくか、世界のサッカーで自分たちはどこを目指すのかに関して理解が深まったのは、自分も含めてすごく良かったなと思っています。

固定観念を覆すことは簡単ではありません。サッカーの現場目線ではシーズンを変えたいと思う一方で、ビジネス面としては懸念されることも当然の事ながら出てきます。しかし、Jリーグ理念に記された「日本サッカーの水準向上」に立ち返ってシンプルに考えるべきだと思ったときに、夏場の選手のパフォーマンスデータをエビデンスとして目の当たりにすると、これはもう絶対に変えなくては駄目だと思いました。現行のシーズンでやっている限り、この先の気候変動を考慮しても、高いインテンシティでパフォーマンスの上がるゲームはできません。プレーする選手たちがより高みを目指せるような環境をつくり、フットボールの質を上げない限り日本サッカーは発展しないと考えました。かつ、Jリーグ理念の2番目の「豊かなスポーツ文化の振興」についても、何十年も変わっていない降雪地域のフットボール環境を変えなければいけないと思うようになってきました。

「日本サッカーの水準向上」、「豊かなスポーツ文化の振興」を実現するためにJリーグが果たすべき役割として、シーズンをずらすことでビジネスでもフットボールでもメリットを得られるという理解が、自分の中でも腹落ちしました。

夏季、冬季の双方におけるスポーツ環境について考えていくということですね。

今回のシーズン移行が、日本の夏季および冬季のスポーツ環境の在り方を考えるきっかけになれば良いと思っています。1年中サッカーができるような環境が日本のいろいろなところに整備されていて、地域差もなくなる。そのような変化がしっかり30年後の日本で生まれているということが大事なのではないでしょうか。シーズン移行を2カ月、3カ月の短期間で決めていたらそこまで考えなかったでしょうし、だからこそ自分にとってもすごく良かったと思っています。質問や疑問はいくつかありましたが、それに対しても一つ一つ、Jリーグのスタッフが答えようとしてくれました。さまざまな課題も見つかりましたし、議論を通じて皆が同じ方向を向くことができたことは、本当に良かったと思います。

パートナーの皆様には、シーズン移行やルヴァンカップの大会方式変更にもご理解いただいたと聞いています。

シーズン移行に関しては、度々ご説明の機会をいただいているので、十分にご理解いただいています。Jリーグの目指す方向で一緒にやっていきましょうというスタンスでいてくださるのはすごく心強いですね。

明治安田生命様では、2023年10月に従業員の皆様が地域の皆様とスタジアムにご来場いただいた数が200万人を突破しました。Jリーグのタイトルパートナーのみならず、クラブともそれぞれパートナー契約を結んでいただいており、またJリーグに参入していない地域のサッカークラブにもサポートをいただいています。日本のサッカーの未来に向けて、足並みをそろえてやれているのは本当にありがたいと思っています。ルヴァンカップの大会方式変更についても、ヤマザキビスケット様にはビジネス的なメリットもフットボール的なメリットも十分に感じていただいていると思います。

Jリーグを支えていただいているパートナーの皆様とは、これからも社会のために一緒に何をしていくかを考えていく取り組みができれば、双方にとってさらに良い関係を築いていけると思いますね。

野々村 芳和

野々村 芳和Yoshikazu Nonomura

1972年5月8日生まれ、静岡県出身。慶応義塾大学を卒業後、1995年にジェフユナイテッド市原加入。2000年にコンサドーレ札幌に移籍し、翌年に現役を引退。2013年3月にコンサドーレ札幌の運営会社である北海道スポーツクラブの代表取締役社長に就任。2016年にはJ2優勝を果たし、5年ぶりのJ1復帰を実現。2015年より(公社)Jリーグ理事。2022年3月15日、第6代Jリーグチェアマンに就任。