Question
明治安田Jリーグ百年構想リーグでは、90分以内で決着がつかない場合はPK戦が実施されました。その狙いと実際の成果について、聞かせてください。
Answer
サッカー界のど真ん中にいる人からすると、違和感はあったのだろうなと想像します。でも、サッカーにちょっと興味があるとか、以前は興味があった、という人たちには刺激の一つになったのでは。中継や配信では、PK戦になると視聴数が伸びたと聞きました
Question
古くからのファン・サポーターからは「リーグ戦のPK戦は懐かしい」という声が聞かれました。野々村チェアマンも、現役選手だった当時にPK戦を経験していますね。
Answer
僕自身も懐かしさはありましたし、もう一度見てみたい気持ちもありました。もちろんそれだけが理由ではなく、今年はFIFAワールドカップ2026™が開催され、SAMURAI BLUEは2010年大会、2022年大会ではPK戦で敗れている。それもあって、どこかのタイミングでPK戦を取り入れたいというのは、かねてから考えていました
Question
チーム関係者に聞くと、試合へ向けた準備ではセットプレーの練習に加えてPK戦も取り入れた、とのことでした。
Answer
国内トップレベルのクラブがこれだけPKと向き合った機会は、初めてではないかと思うんです。普段のトレーニングに占める割合は、相手のスカウティングなども含めて圧倒的に増えたのだろうと。GKの存在感もクローズアップされました。そこは何らかの形で、プラスに作用していくと思います
Question
AFCチャンピオンズリーグElite(ACL Elite)などのアジアの戦いへ出ていけば、ノックアウトステージではPK戦が行われます。
Answer
そういうところにもつながっていけばいい、と期待しています
Question
PK戦の導入とともに、昇降格のないレギュレーションも明治安田Jリーグ百年構想リーグの特徴でした。
Answer
われわれはさまざまなシミュレーションをします。昇降格がなくても通常のリーグ戦と変わらない熱量で試合が行われるのか。それに伴って、観客動員はどうなるのか。正直に明かせば、不安もありました。けれど、ピッチ上のパフォーマンスは何ら変わりなく、観客動員も過去最高だった2025シーズン比で103.6パーセントを記録しました。さらに言えば、昇降格がないので、若い選手を積極的に起用するクラブが見受けられました。そこはすごくポジティブな要素ですね。10代の選手がどれだけ試合に出ているのかは、データを見ても昨シーズンまでより増えています。それが明治安田Jリーグ百年構想リーグだったからなのか、それともトレンドが少し変わってきているのかは、注視していかなければならないですが。いずれにしても、若い選手の出場機会が増えているのは、ポジティブな要素に挙げられますね
Question
高卒1年目の選手や第2種登録の選手の出場は、新しい興味を提供することにつながります。
Answer
世界のサッカー界で5大リーグと呼ばれるイングランド、スペイン、ドイツ、イタリア、フランスと比較すると、Jリーグは試合に出場している選手の平均年齢が2歳ぐらい高いんです。5大リーグはもちろんヨーロッパの各国リーグでは、将来有望な選手に早くから実戦経験を積ませて、同一リーグの上位クラブや他国のリーグのクラブへ移籍させる、というビジネスが成立しているからです。ある選手を20歳で移籍させるとなったときに、18歳や19歳でどれだけ試合に出ているのかが、評価に大きく影響しますので。日本人の一般的な感覚では、未知数の18歳より20代後半や30歳の選手の方が計算できる。もちろん勝敗が懸かっているので、その時点で勝つために最善の選手を選ぶ。それは否定されるものではありませんが、今回の明治安田Jリーグ百年構想リーグをきっかけに若い選手の起用が変わっていくのかを、しっかりと追跡していきたいですね
Question
ピッチ上の熱量についていえば、思うような成績を残せずに監督交代へ踏み切ったクラブもありました。どのクラブも目前の試合に、全力で挑んでいたのでしょう。
Answer
半年間の厳しいシーズンでしたから、何らかの形でクラブをサポートしなければならない。それが勝利への欲求を促すことにもつながれば、ということで特別助成金と賞金を設定しました。それも均等に配分するのではなく、競争の中で取りにいってもらう、という形にしました。明治安田J1百年構想リーグでは、優勝したヴィッセル神戸が2億3100万円、2位の鹿島アントラーズが1億6000万円でした。
Question
明治安田J1百年構想リーグの最終的な順位については、大きな驚きをもたらすようなものではありませんでした。一方で、明治安田J2・J3百年構想リーグでは、昨シーズンのJ2で最終節に残留を決めたカターレ富山が2位に、J3からJ2へ昇格したばかりのテゲバジャーロ宮崎が3位に食い込みました。さらには、J3の鹿児島ユナイテッドFCも5位で終えています。
Answer
明治安田J2・J3百年構想リーグは、地域リーグラウンドのグループ分けがまさに地域性に基づいたので、J2のクラブが多いグループがあれば、J3のクラブが多いグループもありました。それが順位に影響したのかもしれませんが、富山はすごくいいサッカーをしていました。チャレンジングな姿勢を持ったクラブが、特にJ2・J3は多かった印象です
Question
明治安田J2・J3百年構想リーグでは、J2とJ3のクラブが真剣勝負を戦うという特別な興味を提供しました。
Answer
J2のクラブには、当然ながらプライドがある。そこを刺激する意味で良かったのかな、と。それに対して、J3のクラブはチャレンジですよね。J2対J3で点差が開いた試合もありましたけれど、相対的にJ2とJ3の実力差は縮まっている印象です。クラブの売り上げの規模を見ても、J2の中位以下とJ3では、そこまで大きな差はありません
Question
明治安田Jリーグ百年構想リーグと並行して、ヴィッセル神戸、サンフレッチェ広島、FC町田ゼルビアがACL Elite2025/26に出場し、3チームともにノックアウトステージへ勝ち上がりました。そして、町田が決勝まで勝ち上がり、惜しくも延長戦の末に優勝を逃しました。Jリーグ勢の決勝進出は、4シーズン連続となります。
Answer
その4シーズンの成績は1勝3敗。アジアの頂点に立つのは簡単ではないけれど、十分に戦えるとも感じています。ひと昔前はACLに出場すると日程が厳しくなり、リーグ戦もACLも狙うのは難しいところがありました。それが今は、どのクラブも本気でアジアのタイトル獲得に向かっています
Question
ACL Eliteとなった2024/25シーズンから、準々決勝以降のファイナルラウンドはサウジアラビアでの集中開催となりました。そして、2024/25シーズンも2025/26シーズンも、同国のアル・アハリ・サウジFCが優勝しました。
Answer
優勝すると1000万ドル、準優勝で400万ドルといった賞金が設定されたことについて、サウジアラビアサッカー協会の貢献はかなりのものがあります。かつてのように賞金があまり多くない中でやるのか、それとも金銭的な魅力を高めるか。そのどちらがいいのかは、われわれも、どの国も、理解をしています。サウジアラビアでの集中開催は難しい環境ですが、それでも勝ちにいくんだという考え方で、Jリーグ各クラブは一致しています
Question
AFCチャンピオンズリーグTwo (ACL Two)2025/26では、西地区の決勝進出チームのホームでのシングルマッチとなり、くしくもサウジアラビアのリヤドでの開催となりました。その環境下でガンバ大阪が、ポルトガル代表FWのクリスティアーノ・ロナウドを擁するアル・ナスルを1-0で退けました。
Answer
アル・ナスルFCは2025-26シーズンのサウジ・プロリーグの優勝チームです。タイトル獲得に真剣に乗り出しているクラブが増えて、大会の競争力が高まっていく中で、ガンバ大阪は頂点に立った。彼らの戦いぶりを見ても、Jリーグのクラブは自信を持っていいと思うんです
Question
チェアマンからご指摘があったACLの競争力という意味では、外国籍選手枠が撤廃されたことが大きいのでは。ACL Eliteのラウンド16で広島を破ったジョホール・ダルル・タクジム(マレーシア)などは、さまざまな国の選手がプレーしていました。
Answer
短期的に勝つのなら、外国籍選手を多く抱えるチーム編成でもいいかもしれません。けれど、自国のリーグの発展、サッカー文化の醸成、若い選手の育成といった観点で考えると、中長期的にはわれわれのやり方が成功へつながるのだろう、と信じています
Question
2026/27明治安田Jリーグからは、ACL Elite/ACL Twoとスケジュールが並行します。
Answer
明治安田Jリーグ百年構想リーグの終了から数カ月後には、新シーズンのACL Elite/ACL Twoへ挑むことになる。ACL Two優勝で出場権をつかんだガンバ大阪を含めて、直近のJリーグで力を示したチームが出場の権利を獲得できているので、対アジアでの競争力をこれまでよりも発揮しやすいのかな、という期待があります
Question
5月26日に2025年度のクラブ経営情報が、先行発表として開示されました。3月および6月決算の7クラブを除いた53クラブの売上高は、前年比112%増の1757億円となりました。
Answer
僕がチェアマンになって2026年で5年目ですが、1年目の2022年度は売上高が1375億円でした。全60クラブでは2100億円超になる見通しです。特にJ1のクラブがしっかりと成長することで、J2の上位クラブ、全60クラブ合計で20番前後ぐらいのクラブも、J1で戦うためにはこのぐらいの売上高がなければいけない、という基準が上がっていく。かつてのJ1では、年間の売上高が50億円のクラブが優勝することがあれば、35億円のクラブが勝つこともあった。その間に、世界のトップリーグとの差が開いてしまった。2025年度は浦和レッズが3年連続で、川崎フロンターレが初めて100億円超となりました。そういうクラブが出てくると『自分たちも負けられない』という意識が広がって、リーグ全体が引っ張られていきます。内向きではなく外向きの視線で、対世界で『もっと成長しなければ』という意識が浸透してきている。J1のクラブはもちろん、J2からJ1を目指すクラブも、すごく努力していると感じます
Question
その先の一つの目標として、トップクラブの売上高200億円を掲げています。
Answer
現状ではそれぐらいになるといいのだろう、という認識です。UEFA(欧州サッカー連盟)チャンピオンズリーグで数シーズンに一度はベスト8に食い込む、という立ち位置のクラブが200億円から300億円ぐらいの規模なんです。200億円ならラウンド16に残れるぐらいのクラブはつくれる、という見立てです。言い方を変えると、200億円ぐらいの売上高ならば、UEFAチャンピオンズリーグでベスト16に入るようなクラブの選手を、獲得することができる。Jクラブからオファーを受けた選手は、そのクラブの状況、ホームタウン、スタジアムといったことを調べるでしょう。われわれとしてはまず、オファーができる環境をつくり出そう、ということです。そのために、Jリーグと各クラブが一緒に努力をしていきましょう、と
Question
その言葉通りに、野々村チェアマンは就任からさまざまな施策を打ち出してきました。
Answer
Jリーグの価値、各クラブの価値をもっともっと上げて、新しい収入をつくっていきましょう、というのが基本的なスタンスです。明治安田Jリーグ百年構想リーグでは、地域リーグラウンドで勝点1あたり200万円の特別助成金を配分しましたが、勝てばお金が入る仕組みは必要でしょう。並行してJリーグの価値を高めていくためのアイデアを、もっともっと出していかなければ。例えば、放映権についてはまだまだできることがある。5大リーグとの大きな差は、そこにあったりもしますので
Question
海外へどんどんと販売していく、ということでしょうか。
Answer
それももちろんありますが、それはもうちょっと先かな、というのが個人的な感覚です。国内の放映権の価値を、まだまだ上げられると考えています
Question
そうやってJリーグの価値を高めていくと、Jリーグのクラブから日本代表に選ばれる選手も増えていくことが期待されます。チェアマンは10年後のJリーグが目指す姿として「日本代表におけるJリーグ選手の割合を30%に、つまり26人なら8人に」としています。
Answer
これについては目標というよりも、リーグのサイズで決まってくるのでしょう。ヨーロッパのリーグに近づいていけば、必然的にそうなっていくのだろう、と。FIFAワールドカップ2026™の出場国でいうと、イングランドはプレミアリーグでプレーする選手が21人。ドイツはブンデスリーガでプレーする選手が19人。スペインはラ・リーガのクラブでプレーするのが17人。一方、国内リーグでプレーするのは、フランスは8人、オランダは2人、ベルギーは3人です。南米ではアルゼンチンが2人。ブラジルはネイマールらのベテランが、ヨーロッパのクラブから自国へ戻っているので7人です。監督によって選手選考が変わってくるという大前提はあるものの、リーグのサイズとかその価値が高くなれば、代表チームに選ばれる選手の数は増えていく、ということがはっきりしています
※インタビュー当時の人数
Question
数字に表れていますね。
Answer
フランスの8人のうち、5人はパリ・サンジェルマン(PSG)所属です。PSGのように国際的に活躍するチームが日本に3つ生まれたら、1チームから2人ずつ、プラスアルファで8人、ということになるかもしれない。あるいは、今回のフランス代表のように、1チームから5人選ばれることがあるかもしれない。どちらがいいとかいうことではなく、さまざまなパターンが考えられますが、自国のリーグからFIFAワールドカップの代表に選ばれる選手が増えて、PSGのように5人、6人と代表に送り込むクラブが出てきたら、ACL Eliteを勝ち抜いてFIFAクラブワールドカップに出場する、出場するだけでなく上位へ進出できる、というところにもつながっていくでしょう
Question
クラブの規模、リーグの規模が大きくなっていけば、アジアはもちろん世界におけるプレゼンスが高まっていく、ということですね。さて、来る2026/27明治安田Jリーグへ向けて、J1の清水エスパルス、ガンバ大阪、ファジアーノ岡山、V・ファーレン長崎、J2のRB大宮アルディージャが、欧州でキャンプを行います。J1リーグの4つのクラブについては、新設された欧州キャンプ助成金制度の対象クラブです。
Answer
例えば、ファジアーノ岡山はオーストリアでキャンプを実施し、ドイツ・ブンデスリーガ1部のヴェルダー・ブレーメンをはじめとして、トレーニングマッチを数試合組んでいますね。また、同じ施設でキャンプをしている他クラブは、どのようなトレーニングメニューを組んでいるのか、といったものを知ることもできるでしょう。監督以下スタッフも、フロントも、多くの気づきを得ることができるのでは。ヨーロッパのクラブのスタンダードを認識したり、自分たちのネットワークを広げたりする好機になればと思います
Question
それでは最後に、来る2026/27明治安田Jリーグへの期待を聞かせてください。
Answer
僕自身はこれまでの延長線上で、十分に魅力のあるものになるだろうと考えます。5大リーグと呼ばれるリーグは、サッカー専用のスタジアムが多くて、スタジアムの雰囲気が素晴らしい。ひるがえってJリーグのスタジアムは、きれいで、安全で、安心して観戦することができる。われわれならではのアドバンテージは、実は少なくない。インバウンド需要がこれだけあるのだから、地域的なデメリットは気にしなくてもいいのでは、とも思います。日本人選手がヨーロッパのクラブへこれだけ多く移籍していることから、選手育成のシステムが非常にしっかりしていることも分かる。自分たちの長所を自覚して、もっともっと魅力あるリーグにしていきたいですね
文 戸塚 啓